病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「第116回歯科医師国家試験の結果を考える」
3月16日に第116回歯科医師国家試験の合格発表がありました。
受験者数は3,157人、合格者数は2,006人、合格率は63.5%でした。
これは医師国家試験の合格率91.6%、合格者数は9,432人。
歯科国試の合格者は医師国家試験合格者の5分の1に過ぎません。
そのなかで、国公立大学歯学部の合格率は、過去5年間で2019年の87.5%から2023年は80.9%と6.6ポイント低下しました。
合格率90%以上の歯学部は鹿児島大学の1校だけで、過去5年間連続で合格率80%以上を維持しているのは広島大学と九州歯科大学の2校です。
とはいえ、新卒合格率80.9%ということで、国公立大学の歯学部に入れれば、まず歯科医師になれるといえるでしょう。
私立大学歯学部の新卒の歯科医師国家試験合格率は75.5%で、合格率90%以上は、東京歯科大学と松本歯科大学の2校でした。
東京歯科大学は過去5年連続90%以上を維持しており、松本歯科大学も過去3年間、90%以上を維持しています。
合格率80%以上は、岩手医大、昭和大学、日本歯科大学、鶴見大学、日本歯科大学新潟、朝日大学の6校で、昭和大学は過去5年以上80%以上を維持しています。
では、修業年限の6年で国家試験に合格する者はどのくらいいるのでしょうか。
文部科学省が公開している、「令和4年度の各大学歯学部の入学状況および国家試験結果者等」から、修業年限(6年)での歯科医師国家試験合格率を見ると、国公立大学でも50%台の歯学部があり、私立大学でも70%以上の歯学部があることが分かります。
しかし、私立大学では20%~30%台の歯学部が6校あり厳しい現状を知ることができます。
また、同資料によれば、6年次の50%以上が留年・休学している私立大学が6校あります。
国家試験の合格率を高くするために学生を絞り込んでいることが窺えるのです。
この6年次で留年・休学している学生のなかで、卒業して国試に合格し、歯科医師になれる学生がどのくらいいるのでしょうか。
歯科疾患実態調査によれば、75歳以上の高齢者のう蝕も歯周疾患も増加しています。
高齢化の進展によって訪問歯科の需要も増大し、歯科医療の需要は高齢化によって今後も増大すると予想されています。
片方で、開業している歯科医師も高齢化しており、今後、後継者がいないために閉院する歯科医院が増加すると予想されています。
このような状況のなかで、6年間の高度な歯学教育を受けた人材が、歯学部を卒業できず、あるいは歯科医師国家試験に合格できずに、歯科医療に携われなくなるのは大きな社会的損失だと思います。
毎年書いているが、例えば私立歯科大学に4年制の「保険衛生技工学部」をつくることはできないでしょうか。複数回留年した学生を、4年制の「保険衛生技工学部」に3年次から転部させ、卒業生には「学士」号を与え、歯科技工士国家試験と歯科衛生士国家試験の受験資格を与えれば、歯科技工士不足、歯科衛生士不足の緩和にもつながると考えられます。
いまでも4年制の保険衛生学部は人気があるので、最初から「保険衛生技工学部」をめざす学生も出てくると考えられます。
また、4年制の「歯科情報工学部」をつくれないでしょうか。
複数回留年したコンピュータが得意な学生を3年次から転部させます。
医療系の理系学部は人気があるので、最初から「歯科情報工学部」をめざす学生もいると考えられます。
AIを使った診断補助技術や、新たな技工材料の開発などのイノベーションに対応できる高度な専門人材を養成すれば、歯科材料会社などに就職して、世界に先駆けた新しい器材や材料の開発を担当するなど、立派な成果をあげるのではないでしょうか。
定員割れに苦しむ私立大学歯学部にとっても、「保険衛生技工学部」や「歯科情報工学部」のようなセーフティネットを作ることで受験生を集めやすくなると考えられます。
歯科医師国家試験の合格発表がある度に、留年・休学中の学生や不合格となった学生に、歯科医師にならなくても歯科界で活躍できる未来を与えることができないかと思います。
以上