病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「若手歯科医師の賃金高騰を考える」
勤務医の採用難が続いており、入局5年目までの若手歯科医師の賃金が高騰しています。若手歯科医師の賃金水準とそれを賄う売上と利益について考えてみましょう。
数年前まで、臨床研修終了後1年目の歯科医師の賃金は25万円前後が相場で、2年目で30万円、3年目で35万、4年目で40万円になり、5年目で40万円+歩合給、あるいは固定給50万円+自費の歩合などの賃金形態になる医院が多くありました。ところが、今は臨床研修終了後1年目から月額40万円が相場になり、50万円以上を提示する歯科医院も散見されるようになっています。3年目で800万~900万円、4年目から5年目では年収1000万円以上を提示する医院も多くあります。
この賃金を支払うには、どの程度の売上と利益が必要になるのでしょうか。
1.1年目の歯科医師に固定給で40万円を支払うには、いくら売上が必要か
研修終了後1年目の歯科医師に、保険の損益差額率を25%として40万円を支払うには、医院の利益をゼロとしても、保険点数16万点円が必要になります。この点数は1年目の歯科医師には難しいでしょう。
2.3年目の歯科医師に固定給で年収800万円を支払うには、いくら売上が必要か
年収800万円は月額約667,000円です。3年目の歯科医師は、保険点数15万点、自費30万円程度は稼ぐでしょう。しかし、保険の損益差額率を25%、自費を50%とすれば、損益差額は、保険375,000円、自費150,000円の合計525,000円で、142,000円の赤字です。保険売上は、患者数と手の早さ、保険算定の知識で左右されるため、3年目の歯科医師に15万点以上を望むのは困難とみられます。しかし自費は、歯科医師のカウンセリング能力を高めることで増やせる可能性があります。月額667,000円の賃金を賄うには、医院の利益をゼロとした単純計算で、保険15万点に加えて自費を58万4千円以上確保する必要があります。総売上は208万4千円になります。患者数にもよりますが、例えば、5万円のEマックスインレーを月4本で20万円、Eマックスクラウン8万円を2本で16万円、ジルコニアボンド12万円のクラウンを2本で24万円、合計60万円になります。この本数なら3年目でも達成できるでしょう。
3.5年目の歯科医師に固定給で年収1千万円を支払うには
年収1000万円は、月収約83万3千円です。5年目になると保険点数20万点、自費50万円は稼げると考えられます。この場合の損益差額は、保険50万円、自費25万円の合計75万円になり、8万3千円の赤字です。これを賄うには、保険20万点に加えて自費を66万6千円以上稼ぐ必要があります。例えば、Eマックスインレー5万円を4本で20万円、Eマックスクラウン8万円を3本で24万円、ジルコニアボンド12万円のクラウンを2本で24万円、合計で68万円になります。インレー4本、クラウン5本なので、楽に達成する先生もいるでしょう。
ただし、この試算は「医院の利益はゼロ」という条件です。せめて営業利益を10%でも残したいですが、保険点数は患者数と歯科医師の手の早さに左右されるため急激に伸ばせません。つまり、自費を増やすしかありません。そのためには、若手勤務医が自費を増やせる体制を、医院として整える必要があります。
具体的には、若手歯科医師の自費話術能力の向上、側面支援ができる歯科カウンセラーの養成、自費説明ツールや見積もりツールの整備などが必要です。さらに、医院としての自費治療に対する考え方を変えていく必要があります。
「高いものを売りつける」のではなく、「長持ちして、美しく、金属アレルギーの心配のない、体に良い治療をお勧めする」ということを、全員が理解しておく必要があるでしょう。
以上