病医院経営の今をお伝えするコラム
病院改革計画(後編)

前回に引き続き、当院の病院改革計画「選ばれる病院づくり~マグネットホスピタルの実現による安定経営~」の後編「当院が目指す将来像」、「将来像の実現方法」を紹介します。
《当院が目指す将来像》
(1) 当院を取り巻く環境に基づいて目指す事業
マクロ環境、ミクロ環境の課題から将来像として当院が目指す事業を考えてみると、人口減による高齢者増、働き手不足や診療報酬改定による患者負担増、在宅志向、受診控えにより、医療を取り巻く環境は厳しくなっています。
そこで、当院のありたい姿に近づくためには診療科のブランド力向上、新規診療科の標榜、介護事業参入、新規患者獲得(女性、若年層、アスリート等)等の改革が必要で、それらを実行するために医療従事者の安定確保等が必要と思われます。
(2) 現在の事業概要・経営状況と目指す将来像
当院の現在の事業と経営状況、内外環境分析等を元に目指す状態「選ばれる病院づくり~マグネットホスピタルの実現による安定経営~」を将来像として図解化したものが説明画像です。左側は現状を表しており、リウマチ科の収益性や医療ニーズ、診療体制などの見直しが必要と思われます。右側は将来像を表し、太枠が新規事業です。
リハビリ、介護ニーズの拡大による介護事業参入と、それを運営するサテライト診療所を開設し、女性ニーズとして高い皮膚科や歯科、美容などの新規診療科の標榜を検討します。また、病院の老朽化による建て替え、脊椎外科のブランド力アップと県外への集患活動、医師のリクルート強化を図っていきます。
さらに、MS 法人との事業連携として、MS 法人が所有する温泉旅館「市房庵なるお」の有効活用を考えています。温泉旅館のある熊本県球磨郡水上村には2017年に村が設置したクロスカントリーコース「水上スカイヴィレッジ」があり、全国の高校、大学、実業団などの陸上競技長距離アスリートが合宿を行っています。アスリート向けの旅館運営、アスリート食、スポーツリハビリやメディカルチェックなどにより、新たな事業展開、若年層の獲得を目指します。
(3)目指す将来像達成のための長期的展望
現状から10年後の目指す将来像を考えると、現状からの2年は、経営基盤の安定化を目指します。広報戦略や地域に貢献し、診療データを有効活用してエビデンスのある病院経営戦略を展開します。次世代を担う人材を育成し、医療の質の向上とチーム医療を推進していきます。
そして、3年後は新たな診療科や病棟再編、介護事業に参入し、新たな患者層の獲得を目指します。病院の建て替えに向けた準備と、魅力ある職場環境づくりに継続して取り組みます。7年後は病院の建て替えが完了し、さらなるブランド力を向上させる取り組みを行います。10年後はサテライト診療所の本格稼働により、診療圏の拡大と選ばれる病院づくりに努めます。
《将来像の実現方法》
(1)将来像達成のための課題体系
将来像を達成するためには、いくつかの課題が見つかりました。その課題は大きく4つの視点に分類できます。「経営基盤の安定化」、「医療の質向上とチーム医療の推進」、「魅力ある職場環境と人財の育成」、「広報戦略と地域への貢献」です。
選ばれる病院づくりというありたい姿に対して4つの視点で分類し、その課題をそれぞれ体系化しています。
(2) 目指す将来像達成に向けた病院改革マスタープラン
前回の前編からの内容を整理してまとめ「病院改革マスタープラン」を作成しました。当院の現状や課題が将来の新たな役割を生み、その役割に基づいて改革していくことで、ありたい姿に近づいていきます。それが新たな医療や病院を創造し、病院改革が進んでいきます。そのためには改革の推進体制を整え、強化していくことが必要です。
この推進体制の中心となる部門として「経営・情報管理部門」を設置します。この部門は診療データ、財務データのみならず人事データ等も融合したエビデンスに基づいた医業経営・分析・提案をし、今後の経営を支える人財の育成(スペシャリスト・ジェネラリスト等)にも積極的に取り組んでいくことも考えています。
(3)目指す将来像達成に向けた実施計画
前述の「経営・情報管理部門」が具体的に取り組みを進めるとともに、当院が常にありたい姿に近づいているのかを評価・確認していくことが必要です。その推進体制により目指す将来像達成に向けた実施計画を作成しました。特に数値化が可能な取り組みは、客観的に評価しながら完了目標を掲げていくことができます。
例えば、ブランド力をさらに高めたい脊椎外科では広報・広告活動、医療連携活動等により信頼、価値、イメージを向上させ、現在の脊椎疾患患者の割合60%がそれ以上になればブランド力が高まったといえるので、集患数を確認しながら評価できます。
また、医療の質ではそれを客観的に評価する病院機能評価のS 評価が現在の2→3つ以上、B 評価は現在の7からすべてA 評価以上とすることができれば、医療の質向上および安心で安全な医療提供体制が強化されたといえると思います。そのためのプロセスとして、継続した改善活動を「経営・情報管理部門」がサポートしていきます。
このように具体的に取り組み、客観的に評価することで完了目標や目指す将来像に近づいていきます。それが「理念の実現」、「基本方針やクレドの達成」につながり、「ともに働く院内の仲間」、「当院をご利用いただく患者さま」、「日頃から支えていただいている地域社会」、「パートナーである取引業者」から選ばれる病院になり、皆が集まるマグネットホスピタルが実現し、安定経営につながっていくと思います。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2022年9月15日号掲載分一部改編
