病医院経営の今をお伝えするコラム
医師の労働時間把握、残業代の支払いは大丈夫?
医業に従事する医師についての時間外労働の上限規制(原則年960時間)が、令和6(2024)年4月1日より適用されます。
現在、厚労省や医療関係団体等の調査、研修会等があり、法改正対応や健康管理の視点から医師の労働時間の適正な把握、36協定の締結、宿日直許可、勤務間インターバル、自己研鑽の考え方、タスクシフト等についての整備等、医師の働き方改革の気運が高まってきています。
ところで、時間外労働が発生すれば、通常は時間外労働に対応した割増賃金(以下「残業代」という。)を支払う義務が発生しますが、残業代は適切に支払われているでしょうか?
医師の残業代については、例えば、「時間外労働を把握していない」、「年俸額を高く設定しているので残業代も含まれている」、「時間外を請求されたことはいない」、「医師も合意している」などとの認識で別途支払っていない医療機関も少なくありません。
年俸に時間外労働の賃金が含まれているか否かが争われた判例として、医療法人社団Y会事件(最高裁第二小法廷平成29年7月7日判決)があります。
「医療法人Yと医師Xとの間においては、時間外労働等に対する割増賃金を年俸1,700万円に含める旨の本件合意されていたものの、このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったとされ、医療法人Yの医師Xに対する年俸の支払いにより、医師の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」とされました。
第一審、第二審では、医師Xが自分の裁量で働くことができ、給与も相当高額であることから、医師Xの訴えを退けていたが、最高裁で判決が覆っています。
厚労省は、上述の最高裁判決を踏まえて、平成29(2017)年7月31日付「時間外労働等に対する割増賃金の解釈について」等の通知を発出して、不適切な運用について注意喚起をしています。
年俸額に含めて行う手法として、固定残業代というものがありますが、その運用に際しての主なポイントは、次のとおりです。
①「通常の賃金分」と「時間外労働分(固定残業代)」が明確に区分されていること
②実際の時間外労働で算出した残業代が固定残業代を上回るときは、その差額を支払うこと
③雇用契約書、給与規程等に固定残業代制度について規定すること
令和2(2020)年4月1日施行の改正民法により、賃金債権の時効が2年から延長(当分の間3年、いずれ5年)されていることにも留意したいところです。
適正な労働時間の把握に向けての体制整備は進めつつ、雇用契約や給与規程を確認し、運用状況が不適切であれば、見直しをしておくとよいでしょう。