病医院経営の今をお伝えするコラム
病院改革計画(前編)

2021年度に病院改革計画を作成する機会があり、苦悩・奮闘しながら作成した当院の病院改革計画「選ばれる病院づくり~マグネットホスピタルの実現による安定経営~」を前編(病院概要・現状把握等)と後編(目指す将来像・実現方法等)の2回に分けて紹介します。
《当院の概要》
⑴基本情報
当院は、九州のへそと言われる熊本市中央区に位置し、JR、市電、バスなどの公共交通機関等のアクセスがとてもよい場所にあります。1977年に開院した整形外科専門病院で現在の病床数は103床、DPC 一般病棟(49床)と地域包括ケア病棟(54床)の2つの病棟を抱えています。職員数は病院改革計画作成時の2021年8月時点で157人、そのうち医師13人、看護師62人、コ・メディカル34人、その他48人です。
この数年間は医師の異動による診療体制の見直しや熊本地震、新型コロナにより経営面で苦戦が続いています。しかし、他院からの紹介率は年々安定してきており、ここ数年は20%前後を維持し今後の集患に期待しています。
また、職員は離職率10%未満と定着しており、産休・育休からの復帰も100%で、有休取得率は70%前後、時間外労働は月1人あたり2時間未満と勤務環境はおおむね良好と思われます。
⑵当院近隣の地域概要
当院が位置する熊本市は5つの区から構成され、熊本地震で甚大な被害を受けた熊本城は当院から車で10分程度のところにあります。
当院がある中央区の人口は熊本市の25.2%を占め、人口密度は7,316人/ km2とかなり高く、65歳以上の高齢化率は25.3%と全国、熊本県、熊本市の平均と比べて低くなっています。また、中央区には整形外科を標榜する医療機関が多く、熊本市の約4割の病院と約3割の診療所が存在し、競合地域になっています。
《現状認識》
⑴診療圏の概況・競合実態
当院の主な競合である5医療機関を調べてみたところこのうち4医療機関が北東エリアに存在し、当院のシェアは他の3エリアに比べ最も低くなっています。
特に、一次診療圏(当院から半径4km以内)に存在する医療機関は当院と診療機能が酷似しており、最も脅威と感じています。できるだけ競合を和らげるため、競合5医療機関のうち3医療機関へ週1日ずつ当院医師を派遣し、共存できる関係性を構築しています。競合・競争ではなく、共存を目指しています。
⑵将来推計⼈⼝・診療科別患者数
説明画像のグラフ上段は、当院から半径7km の二次診療圏での将来推計人口および診療科別患者数の推移を表しています。将来人口推計では、生産人口(15歳~64歳)が15年後には1割程度、30年後には2割程度減少し、働き手不足が課題として考えられます。
一方で、65歳以上の高齢者は年々増加し、30年後には入院患者数が3割程度増加すると予想されており、高齢者医療と介護需要が拡大すると思われます。15歳未満の若年層は年々減少し30年後は約2割程度減になり、将来の生産人口減につながっていくと予想されます。
また、説明画像のグラフ下段を見て分かるように、整形外科の入院患者数は15年後には2割程度、30年後には3割程度増加し、市場は拡大すると思われます。入院リハ患者数も30年後には2割程度の増加が予想されます。
一方、整形外科の外来患者数は15年後ごろから横ばいです。外来リハ患者数、外来・入院リウマチ患者数もほぼ横ばいで、通所や訪問、在宅などの介護サービスでカバーするのではと予想されます。
⑶当院を取り巻く医療・介護市場
当院のある熊本市において、医療・介護市場を調べてみたところ、75歳以上の人口が2020年からの10年間で急激な増加が予測されています(90歳以上は約1.5倍)。逆に50歳未満の人口は、その10年間で減少傾向(10%程度)にあります。全体的な人口がこの10年間で1%程度の減少にとどまっていることは、高齢化率および介護需要が高まることにつながり、介護費指数は2015年からの5年で119%、2020年からの10年で128%と急激に増えると予想されています。
また、介護費指数は2015年からの15年間で152%と、医療費指数115%に比べ大幅に増えると予想されており、介護ニーズが高くなる地域と思われます。
対策の方向性としては、若年・中年層の予防医療(健診や自由診療)を推進し、医療・介護費用の抑制につなげていくことが必要と考えます。また、75歳以上の要介護者が増えることが予想されているため、介護分野に全く参入していない当院においては認知症に対応できる居宅、通所、訪問サービスなど介護サービスへの参入・対応が必要と考えます。
⑷診療利益率と病床利用率
2020年度の診療実績では、外来でのリウマチ科の利益率は高額な薬剤の使用とスタッフが多くかかわることから、マイナス76%とかなり厳しいことが分かりました。また、外来での整形外科の利益率もマイナスで、診療効率がよくないことが分かります。
また、新型コロナの影響もあり、2020年度の病床利用率は全体で65%を下回り、かなり苦戦した1年でした。その中でも一般病棟は60%を下回っており、特に女性の利用率が前年度の41.4%から25.5%に大幅に減少、これは関節疾患女性患者の診療先延ばしによる受診控えが原因でした。
以上のことから、整形外科だけで経営を継続安定させていくのは非常に困難で、新規診療科の標榜による相乗効果と利益率の悪い診療科の診療体制の再検討、女性獲得の戦略が課題となります。
⑸職場風土の現状
当院の職場風土の現状と目指す方向を調べたところ、全体的に職場風土は良好であり、離職率低下、職員確保につながっていると思われます。
しかし、組織統制と部門間協調は、重要度は高いが満足度が低く、注意が必要です。部門方針と部署方針の整合性が取れておらず、方針の明確さ・具体性・納得度・一貫性が得られていないことが課題となっています。
また、部門横断での取り組み、協力体制やサポート体制が図られていないことも課題であり、部門全体ミーティングや部門間合同プロジェクト等で組織縦横の活性化を図ることも必要だと思います。(後編に続く)
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2022年8月1日・15日号掲載分一部改編
