病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「国民皆歯科健診とその影響を考える」
政府は毎年の「国民皆歯科健診」の導入に向けて検討する方針をまとめた。今回は、国民皆歯科健診の影響を考えてみたい。
図表-1は、平成28年の歯科疾患実態調査のう蝕をもつ者の割合の年齢別年次推移である。35歳から79歳の年齢層の90%以上にう蝕があり、65歳以上のすべての年齢層で増加している。国民皆歯科健診が実施されると、このような有病者率で歯科疾患が発見され、膨大な数の患者が歯科医院に押し寄せるというイメージになる。しかし、全国の約7割の自治体で健康増進法に基づく歯周病対策の検診を実施しているが、受診率は1割にも満たない。現実的には、「痛みがない」などの理由で治療を開始しないケースが大半と推測される。国民皆歯科健診によって国民医療費を削減しようとするのであれば、受療率を高める対策も考えなければならない。
また、健診が義務づけられるといくつかの問題が起きると考えられる。全国の歯科診療所に健診希望の患者が押し寄せるが、広域的に患者を集める人気の大型歯科医院に集中するだろう。その結果、日ごろから予約が取りづらい人気歯科医院では日常の診療に支障が生じる事態に陥りかねない。また、充分な歯科医師と歯科衛生士が必要になるため、勤務医と歯科衛生士の奪いあいが激化する可能性がある。そして、国民皆健診でどこまでの検査と処置を行なうのかによっても歯科医院の負担が異なってくる。健診だけなのか、スケーリングまで行うかで歯科医院の負担が違ってくる。さらに、30分単位のチェアタイムで予約を管理している歯科医院が多いとみられるが、15分程度で完結する検査予約が入り込むことで、通常の診療やSPTの予約が入りづらくなり減収に陥る可能性もあるだろう。訪問診療では、要介護者のうち訪問歯科診療を受診できているのが25%程度とされており、全員が歯科健診を受けられるかどうかにも疑問が残る状況である。
国民皆歯科健診によって、国民医療費の削減効果が期待されている。歯周病が糖尿病や心疾患、アルツハイマー型認知症など多くの疾病の原因になっていることが知られ、ガンや臓器移植、大腿インプラントなどの手術の周術期口腔ケアによって、医療機関の平均在院日数が短縮されるなど、歯科医療による国民医療費の削減効果が明らかになってきたからである。国民皆歯科健診は歯科界にとって久々の朗報である。個々の歯科診療所としても、巨大な健診需要とそれに伴って発生する診療需要の拡大に対応できる体制を計画的に整備していく必要があるだろう。 以上