病医院経営の今をお伝えするコラム
働き方改革と輝き方改革の進化

《働き方改革》
本来、どのような働き方が最適なのか、今まで取り組んできたものを法律や規則等に照らし合わせながら、「進化」させていくことを基本に取り組んでいます。
(1)アナログからデジタルへ
当院に転職した2016年9月1日、期待と不安に心躍らせながら初出勤。配属先の事務部に行くと、私を出迎えてくれたのが手書きの「出勤簿」でした。前職のK 病院に入職した1990年には打刻式タイムカードが導入されていましたので、出勤した証しである押印と出退勤時刻を手書きする出勤簿での勤怠管理は初めてのことでした。
その時に最初に出会った総務課の職員に「ここは出勤簿なんだね?」と尋ねると、「はい、入職して10年以上経ちますが、ずっと出勤簿です。出勤簿だと何か都合が悪いことでもありますか?」との回答でした。人事労務を担当する総務課の職員ですら、客観的な労働時間の把握や管理が必要という認識が全くありませんでした。ちなみに、出退勤時刻は1カ月間、全く同じ時間が書かれており、職員一人ひとりの労働時間をとても把握できるような状況ではありませんでした。
このような状況でしたので、転職して最初に取り掛かったのが労働時間の把握・管理をどうするかでした。まずは、今後の働き方改革を適切に進めていくためには管理職の理解が必要不可欠と考え、管理職が出席する運営会議などを活用して労務管理等に関する説明を何度か重ねました。
また、客観的に労働時間を把握するだけの打刻式タイムカードではなく、データとして戦略的に人事労務管理ができる勤怠管理システムが必要と考え、総務課と情報システム課が連携して準備を進め、2017年11月に導入することができました。おかげで現在では出退勤および労働時間・時間外労働の勤怠管理・把握、年次有給休暇の管理、給与計算への反映等がスムーズにできるようになり、職員の負担軽減にもつながっています。
さらに、勤怠管理システムの導入がきっかけで、給与明細もWeb 給与明細書配信システムに変更し、ペーパレス化による担当者の負担軽減、経費削減等にもつながりました。約3年で、アナログからデジタル化へと一気に働き方改革が「進化」しました。
(2)労働時間短縮計画
転職して1カ月経って感じたことは、「1日が長い!」。それは会議や委員会、院内研修が勤務時間外に開催されていたからです。
理由を聞くと、「時間内に開催すると通常業務が回らない。現場に人がいなくなるので実働が足りなくなる。看護配置の調整が面倒くさい……」など、現場の都合で会議等の時間を設定していました。
よくある理由かもしれませんが、私が心配したのはこの状況を疑問視する職員が少なく、普通のことだと思っていること、それが組織として風土化していることでした。
私が「すべてを時間内で開催する」と言ったところ、「そんなことをしたら忙しくなるからやめてくれ! 人が足りなくなる!事務長は何を考えているのか!」と猛反対にあいました。
そもそも8時間を超えて勤務シフトを組むことは法的にも好ましくなく、時間内に開催することが職員の健康管理・負担軽減につながると考えていましたので、諦めずにコツコツと伝えていきました。おかげで現在では現場や職員の協力・理解、業務改善などにより時間内での開催ができるようになりました。1回の開催時間も30分以内とルールを決めて、報告事項はできるだけメールにて周知、検討事項を中心に委員会や会議などで協議するように短時間開催を意識しています。時間内の会議等開催により、忙しくなるどころか時間外労働がほとんどなくなったのは、職員の意識と業務改善のおかげであることは間違いありません。
《輝き方改革》
職員が今以上に輝き、生きがいと誇りを持って活躍できる職場になるよう、今まで取り組んできたものを「進化」させながら、新たなものも取り入れて融合させています(説明画像)。
(1)職員の健康が第一
職員が輝いて生き生きと活躍するためには、まずは健康が第一と考えています。
私は入職してすぐに、当院で雇用時健康診断を受けました。なんと身長、体重は自己申告、血圧はセルフ、血液検査やその他の検査は必要最低限。前職のK 病院では入職から約15年間、健康診断・人間ドックを行う健康管理部に所属していたので、あまりの違いにびっくりしました。労働安全衛生法に抵触しない程度の実施という印象でした。
これでは「病院の宝である職員の健康は守れない」と思い、まずは職員の健康管理の充実を図ろうと考えました。さっそく「専門の健診機関に職員健康診断を全面委託したい」と衛生委員会に提案しました。職員は喜んでくれると思っていたところ、「行くのが面倒くさい、抜けられると現場が回らない、今まで院内に蓄積したデータが活用されない、健康診断にかけるお金があるなら給料を上げてほしい……」と、ここでも反対意見が圧倒的に多く、私の力不足もあってその年の健康診断は残念ながら院内での実施を継続することになりました。
しかし、翌年も私の想いは変わらず、「専門の健診機関に全面委託したい」と衛生委員会に再度提案しました。職員の理解を少しずつ得ながらいくつかの健診機関に受け入れを相談し、その結果、当院から車で約10分の健診機関に委託することができました。健診項目も充実しており、35歳以上からは協会けんぽの補助金を利用して詳しい検査ができるようになりました(本人負担なし)。本人が希望すればいろいろな検査をオプションとして追加もでき(自己負担)、さらに詳しく健康チェックをしてもらうこともできるようになりました。
検査項目が増えた分、異常所見者は増えたかもしれませんが、「見つかってよかった」、「来年は人間ドックを受診しようかな」など、自分の健康を見直すよいきっかけになったようで安心しました。受診後も当院の産業医である内科医がしっかりフォローしています。繰り返しになりますが、「当院は職員の健康を第一」に考えています。
(2)モチベーションアップに向けて
職員が輝くためのモチベーションアップの一つとして、人事考課や処遇、資格取得支援等は必要不可欠と考えています。それは、人事考課では昇給・賞与に処遇を反映させるだけでなく将来の夢や目標を一緒に考え、職員の人財育成、能力開発につなげていくきっかけにしているからです。職員がスキルアップのために資格を取得したいという意欲がある場合には、必要に応じて経費や公休をサポートしています。これも処遇と考えています。
私が入職した2016年には、年2回の人事考課が要項に基づき運用されていました。
職員も慣れており、スムーズに運用できているように感じました。入職後初の人事考課が終わり、処遇等に反映させるための調整を行いました。この調整は事務長の仕事です。
しかし、人事考課の公平・公正な運用、評価をルール化した「人事考課制度運用規則」、仕事の達成度・習熟度や役割、役職等を職種ごとに等級として表した「資格等級基準表」、人事考課の評点、職種、役職等に基づき等級・号俸で決定される「給与表(俸給表)」等がなく、また人事考課評価表は職種、経験年数、役職等に関係なくすべて同じ評価表を利用していたため、公平性、公正性を保つための調整に苦慮しました。
ただ、課題が明確になっていたため、これらを整備するにはそれほど時間はかかりませんでした。現在の人事考課制度は何度かアップデートしながら公平・公正を意識した運用になっており、人財育成、能力開発、モチベーションアップにつながっていくことを期待しています。
(3)職員が喜ぶ福利厚生
福利厚生は、職員がさらに輝くためのツールといえます。職員の提案や意見をできるだけ取り入れ、職員のニーズに合った利用できる福利厚生制度を準備し、職員の定着・育成につなげています。
当院で準備している主な福利厚生は、職員MVP 表彰制度、各部門活性化活動補助金規程、給食補助、旅館宿泊補助、リフレッシュ休暇、美力アップサークル、誕生月会、サークル活動、レクリエーション活動、健康診断、職員相談窓口、プロスポーツの観戦チケット提供等です。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2022年6月15日号掲載分一部改編
