病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「歯科技工士の実態と将来像を考える」
(公社)日本歯科技工士会から「2021歯科技工士実態調査」が公表された。アンケート3千通のうち991通を回収したものです。一部を紹介してみましょう。
回答者の年齢構成は、50代以上が47.3%を占めており、20代30代が少ないです。高齢化しており、定年を65歳とすればあと15年で約半数になります。年収は、500万円以下が65.8%と約3分の2を占めており、売上高は、42.2%が1,000万円未満と零細規模が多かったです。若年層にとり魅力に乏しい水準とみられます。1週間の残業を含めた就労時間は40時間以内が22.0%、50時間までが47.4%と約2分の1を占めており、勤務者の70.1%が何らかの週休2日制でした。100時間超の過労死水準を上回る職場も5.8%残っていますが、長時間労働は改善されつつあるようです。問題として認識している項目は、「低価格低賃金」78.1%、「長時間労働」64.2%、「社会的地位の低さ」51.5%、「歯科技工士不足」44.5%、「健康問題」35.7%という回答でした。ただし、勤務歯科技工士の38.5%が勤務のまま定年まで勤めると回答しており、78.2%が転職を考えていませんでした。ある程度安定的な生活が期待できているためとみられます。「後継者について」は、「いない」が73.3%、「まだ決まっていない」が14.0%で、「決まっている」は9.8%しかいませんでした。将来において歯科技工所が激減する可能性があるという戦慄すべき結果です。
厚生労働省も「歯科技工士の養成・確保に関する検討会」を継続的に開催して今後の方向性を答申していますが、あえて私見を述べると、歯科技工士の将来に向けた改善対策は、まず、若い人にとって魅力ある職業にすることでしょう。そのためには、①魅力ある年収、②余暇が楽しめる余裕のある勤務時間と休暇、③社会的地位とイメージの向上、が不可欠です。これらを実現するためには、①歯科技工報酬の明確化による歯科技工士の増収、②養成機関や国家試験でのCAD/CAMやインプラント技工など若い歯科技工士に魅力のあるカリキュラムの取り込み、③勤務歯科技工士に良好な就労環境の提供できる大型歯科技工所への集約化、などの対策が急務です。特に、ITに精通した人材のCAD/CAMなど新しい歯科技工への流入促進が不可欠でしょう。また、歯学部4年次修了者で一定の専門課程を終えた学生に歯科技工士国試の受験資格を授与できるようにすれば、若手人材の流入対策の一つになるのではないでしょうか。
最大の問題は、今後15年の間に半数の歯科技工士が65歳を迎え、73.3%の技工所に後継者がいないという現実です。一つの対策は、ロボット化とAIによる自動化による省力化でしょう。そのためには高額の工作機械やCAD/CAMの導入、AIによるロボット開発などの投資を進めなければなりません。これには巨額の資本投下が必要であり、歯科技工に進出しようと考える先端企業と連携ができる大型歯科技工所、そして歯科大学の協働が必要とみられます。また、AIによるロボット化が進むにしても、患者の歯牙の色調にあわせてポーセレンを盛るなど人の感性に近い領域は歯科技工士が担当せざるを得ないとみられます。人とロボットの協業をどこまで進めるのか、手探りの開発が必要になるでしょう。そして、一般の生活者並みの賃金水準や勤務時間を実現し、福利厚生や退職金制度、休暇制度までを充実させることができる大型歯科技工所が増えていけば、歯科技工士を目指す若者が増えていくのではないでしょうか。
片方で、歯周病菌が糖尿病やアルツハイマー型認知症の原因の一つになっていることなどから、歯科衛生士による口腔疾患の重症化予防が重視されています。噛むことによる脳への刺激にも認知症の予防効果があることが知られており、この意味でも歯科技工にもっと光があたってもよいのではないでしょうか。
以上