病医院経営の今をお伝えするコラム
それぞれの立場から求められる理想の事務長像

【「院長」が求める理想の事務長像 理事長・院長 成尾政一郎】
近年、病院を取り巻く環境は大きく変化しており、少子高齢化、医療費抑制などが進み病院経営はますます厳しくなってきている。この状態に危機感を感じ、解決策を見いだそうとして悩んでいる病院経営者も多いと思われる。
そのため、病院という組織の円滑な運営には、医療者のみならず事務職員による協力、支援が必須である。特に、事務長には経営戦略、組織運営、職員教育、対外的な交渉など、要求される能力は非常に多い。
① 経営者が的確な経営判断を行うために必要な情報の収集
医療政策や地域医療に関する情報、業務や組織改善のための情報収集。人的ネットワークの活用、研修会参加により最新の正確な情報を得ることが必要である。
②状況分析と今後の戦略策定
自院の財務状況、地域的な医療需要を分析し、今後の医療政策、診療報酬制度の方向性を勘案したうえで、安定した病院経営のための最適な方向性を経営者に提案する。
③組織管理能力
医療者、事務職を含めた全体の病院人事にも関与し、適材適所により病院の組織を円滑に機能させる。
④医療者への支援
医療者が安心して働ける環境を整備し、チーム医療を支援する役割を担う。現場の状況を正確に把握し、問題があれば積極的に介入し、解決に努める。医療器具、医療材料の購入等について現場の意見を集約し、効率的な医療補助を行う。病診連携を促進するための支援も必要である。
⑤人材育成
病院経営に欠かせない各専門分野のスペシャリストを養成すること、優秀な人材を募集・採用する能力が必要である。
⑥院長との意思疎通
病院経営には院長と事務長が自院の現状について情報を共有し、方向性について常に意思疎通を図る必要がある。院長とのコミュニケーションがとれず、方向性、意見が違えば経営もうまくいかず、職員が安心して働ける職場環境とはならない。正しい意見であれば積極的に進言すべきである。
また、偏った考えや、院長に意見せずただのイエスマンでは事務長としての役割を担うことは困難である。分かりやすく事実に基づいた説明で、自分の意見を受け入れてもらう能力も大切である。
最後に、当院事務長は院長である私と常に近い距離にあり、病院経営を共に考えていく頼もしい存在である。今後事務長の担う役割はますます拡大することが予想されるが、その期待に応えてくれると確信している。
【「看護部長」が求める理想の事務長像 看護局長・看護部長 辻口志穂】
「看護部長が求める理想の事務長像」は、安定した病院運営を行うため、医療や経営に関する幅広い知識と高いコミュニケーション能力を持ち合わせたジェネラリストです。全体最適を常に考え、組織に貢献していくスキルを有し、状況に応じて柔軟に対応できる事務長の存在は重要です。医療を取り巻く環境の変化を詳細に把握・統制し、今後の病院方針を職員へ浸透させていく代弁者として、また自院の成長のためには院長に代わってシビアな決断を職員に迫ること、そして院長の発信力を高めるのも事務長の重要な役割であると考えます。
では、当院の事務長はというと、「努力家」のひと言に尽きます。安定した経営を使命とし、プレイングマネジャー、情報収集や分析、戦略の策定と実行、経営資源の最適化など、広範囲にわたる知識を持って役割を全うし、自身のスキルを高めるために病院管理士の資格取得にも励みました。
また、外部活動においても一般社団法人熊本県医療法人協会事務長会副会長や公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会熊本県支部副支部長、熊本県医療勤務環境改善支援センター医業経営アドバイザー、公益財団法人日本医療機能評価機構評価調査者など、精力的な活動は病院への貢献として輝かしいものです。
「経験年数にかかわらず、プロとしてできることは手を抜かないことである」という事務長が考えるプロ。一見、堅物とも捉えられますが、人として誰でも取り組める当たり前のことであり、決して自身の職務に妥協しない事務長の姿は模範となっています。
多様な価値観の職員がいる中で、それぞれが考えるプロは異なりますが、プロ意識を持って職務を全うすることで、プロ集団による組織として病院が成り立つことは重要です。事務長と看護部長は互いに意見できる良きパートナーとして、院長そして病院組織を支えていきたいものです。
【「部下」が求める理想の事務長像 診療支援部情報システム課長 松尾信行】
「部下が求める理想の事務長像」は、なかなか部下の立場からは答えづらいのですが、正直に答えていいとのことですので、正直に答えます。
理想像としては「経営」、「教育」、「人事」について強いリーダーシップがあり、行動力、指導力のもと強い信念を持って取り組む人だと思います。
具体的には「経営」面に関しては、院長の右腕として銀行等からの借り入れなどを利用した資金繰り、増収対策としてマーケティングやデータ分析を元にした施設基準の取得、医師の採用、診療科の編成、病病・病診連携の強化、支出削減策として人事労務管理、医療材料、薬剤等の見直しなどをハイレベルで行う必要があります。
また「教育」面に関しては、病院幹部や管理職に病院の理念・方針、院長の考えを浸透させ、職員が一丸となって取り組める組織づくり、自ら考えて行動できる職員づくり、「人事」面に関しては、「経営」の面でも触れたように、最も重要で事務長でなければできない医師の採用、職員が能力を発揮できるように適材適所を考えた人の配置、雇用の流動性の確保などが必要だと思います。
では、そんな理想の事務長像と実際の事務長はどうかというと、非常に強い信念を持って物事に取り組んでおり、行動力や指導力を持って仕事をされています。また、厳しい半面、夫婦円満や子育ての秘訣など仕事以外のことでもアドバイスしてくれる優しさも持っており、仕事とプライベートの両面で頼りになる存在です。
【「私」が求める理想の事務長像】
「私が求める理想の事務長像」としては、院長に対して「常に味方で、常に相棒で運命共同体である」ことが必要だと思います。
院長は医師であり、診療と経営の最終決定権を持ちます。時には孤独でプレッシャーやストレス、不安等を抱えていることもあると思います。少しでもそれを軽減、分担・分散するために、いろいろな場面で事務長の支えが必要になります。院長を孤独にせず、院長と事務長の2人だからこそ、うれしいことや楽しいことは2倍に、つらいことや悲しいことは2分の1になるように心がけています。
また、「良い病院には必ず素敵な院長がいる」という概念のもと、院内外に発信していくために、院長のマイナスになるようなことは言わないように心がけています。院長はスターでいることが必要です。院長はスター、事務長は病院のマネジャーで、マイナス印象は摘み取るようにしなければなりません。
院長の想いや考えを通訳として代弁することも意識しています。院長が考える将来構想や病院のあるべき姿・ありたい姿を共有し、それを実現するにはどうしたらよいのかを理解し、現場に伝えていくことが必要です。
さらに、立場的に忙しい院長と話す時間は限られています。工夫の一つとして、院長が会合などで夕方から出かける時は、車で会場まで送るようにしています。その車中のわずか10分程度の隙間時間を打ち合わせや意思決定、情報交換、意思疎通等を図る時間として有効活用しています。
また、院長に承諾をいただき、SNSを利用しての情報交換等をしています。それが意思決定の速さにもつながっています。このように院長との関係には、秘書的な役割も必要になります。
事務長自身に対しては、病院の理念を「物語」として自分で現場に伝えられる人、それを各部門のリーダーと考えを共有し、浸透、実現するために挑戦し続けることが必要だと思っています。院長との理念共有は当然のことです。
「儲かることが社会貢献」という考えに基づいて病院運営をしていくことが、事務長には必要だと思います。病院が儲かっているということは、それだけ患者さんが病院を信用・信頼し、利用してくださっているということで、患者さんが求める必要な医療が必要な時に継続して提供できているということになります。
儲ける(安定した経営)ためには質の高い納得のいく医療を丁寧に提供していくことが必要で、患者満足度を高め、患者さんが当院のファンになっていただけるような取り組みを継続していくことが必要です。
それは当院の理念、基本方針、クレドの実践につながっています。どんどん儲けて最新の医療機器などに設備投資し、さらに質の高い医療提供ができる病院として社会貢献していきたいと思います。
事務長には、リーダーシップと経営スキル、収益構造を理解する能力や知識が必要です。診療報酬と施設基準等を把握すること、財務会計や管理会計などのつながりをイメージできることが大事です。それと同じぐらいかそれ以上に、職員満足度を高める取り組みを事務長は実践し、理解することが必要です。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2022年5月15日号掲載分一部改編
