病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「不測の事態に備えよう」
企業や医療機関、介護施設では、地震や洪水などの自然災害や、システム障害、経営幹部の死亡や緊急入院などの危機的な事態に陥った場合に備えて、BCP(事業継続計画)を策定している。歯科医院でも不測の事態への対応を考えておく必要があるだろう。
クライアント医院で、院長が脳内出血や脳梗塞で倒れたり、新型コロナウイルス感染症で緊急入院したり、心臓発作で急死されたり、という事態が続いて起きた。もし、貴医院で院長が倒れたら、医院はどうなるだろうか。4月19日のM3に次のような記事が掲載された。
「熊本の医療法人破産、負債1億円超」 2022年4月19日 (火)配信東京商工リサーチ
(医)社団清礼会(熊本市西区春日7、設立1998(平成10)年7月、理事長:嶋津聡一郎氏)は3月23日、熊本地裁より破産開始決定を受けた。破産管財人には三浦宏之弁護士(三浦・江越法律事務所)が選任された。負債総額は債権者23名に対して1億2608万円。 ~ 中 略 ~
理事長の体調不良により診療活動が難しくなり、2021年9月期の売上高は3666万円まで落ち込み、大幅な赤字計上で再び債務超過に陥った。後継者もおらず、事業継承も困難なことから、今回の措置となった。」
歯科医院でも、院長が倒れたら同じ運命をたどりかねない。しかし、あらかじめ事態を想定して準備しておけば大きな混乱は避けられる。歯科医院など小規模なクリニックでは特に、院長にまさかの事態が起きた場合にどう対応するのかを明確にしておくことが必要である。考えておくべき対策を列挙してみよう。
①生命保険に加入しておく:後継が見つかるまでスタッフを確保し、診療を継続できるだけの運転資金と、借入残額を完済できる保険金額の生命保険に加入しておく必要がある。
②まさかの事態の際に相談する人を指定しておく:残った人が慌てないように、税理士や弁護士、司法書士、顧問の経営コンサルタントなど、相談する人を指定しておく必要がある。
③当面の診療継続対策を講じておく:1ヶ月ほどは歯科医師会から交代で手伝ってくれるが、それ以降の保証はない。万一の際はどうするのか、いくつかの方向性を想定しておく必要がある。
④銀行印、通帳などを、奥様ご家族などが分かるようにしておく:院長が会計をしている場合は、奥様でも勝手が分からないことがある。銀行印や通帳などを奥様やご家族にも分かるようにしておこう。
⑤亡くなっても銀行にはすぐに通知しない:銀行に院長の死亡を通知すると一切の預金引き出しができなくなり、従業員の給与や業者や歯科技工所への支払など、日常の運転資金も引き出せない事態に陥る。このため、銀行には対策の方向性が決まり、事態が落ち着いてから通知する必要がある。
「もしあと1年で人生が終わるとしたら」小澤竹俊 著という書籍がある。ホスピスで3,000人以上の患者さんを見送ってきた医師が書いた本である。自分に置き換えて、もしあと1年で人生が終わるとしたら何をしておきたいか、を考えてみることをお勧めする。診療一筋できたが、もっと家族との時間を大切にすればよかった、妻と世界一周旅行をしたかった、学位を取りたかった、等々…思うことがあるはずである。そのとき「自分がいなくなったあと医院をどうするか」についても考えて欲しい。残された家族は収入を絶たれ生活の術を失う。開業の借入れが残っていることも多く、お子様の学費も必要である。廃業するにも解体費やスタッフの給料も支払う必要があり、患者さんの診療も終わらせる必要がある。納得して人生を終えるために、やりたかったことを計画的にやること、そして、その後の対策も考えておいていただきたい。
以上