病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「在宅医療での安全確保対策を考える」
埼玉県で1月27日、在宅患者の弔問に訪れた医師が射殺されました。報道によれば、殺人容疑で送検された男は、多くの介護施設や医療機関でモンスタークレーマーと認知されていました。一方、殺害された鈴木医師は、犯人から「せめて母親に線香をあげにこい」といわれ、総勢7人で男の家を訪問したといいます。これは危険を察知していたからでしょう。しかし、亡くなって1日経過した母親の心臓マッサージを断って射殺されました。裁判員裁判になると考えられますが、亡くなった医師、そのご家族の無念を果たせる判決を望みたいものです。
モンスター患者や介護者に多い共通点の一つは、介護する親の年金収入で生活していることです。高齢の親が亡くなってからも親の遺体を放置して死体遺棄で逮捕される事件が毎年のように報道されています。引きこもりで無収入の子供が中高年になり、その親が高齢化するなかで、このような事態がいつどこで発生しても不思議ではありません。容疑者は、母親の年金だけではなく生活保護も受けていました。散弾銃は安いものでも一丁30万円~40万円します。母親の医療費も介護費もかかるなかで、趣味のお金を残すためにモンスターになったのでしょうか。
家族が肉親に対して医療行為を行なう医療スタッフに特別扱いを求めたり、注意深く監視して無理な要求や強要につながっていくことも多いです。患者本人の暴力や暴言は、診療行為などに不満を感じているためと考えられ、原因を分析してよりよい医療サービスを提供できるように改善する必要があります。しかし、家族からの暴言や暴力は、思い込みや身勝手な理由が主な原因で医療側の責任ではないケースが多いと考えられます。
また、今回の様に弔問に訪れるように強要するのは香典の持参を期待したり、介護料や医療費の支払い免除を要請したりすることなどの身勝手な目的があると考えられます。患者が亡くなった直後は家族も気持ちが動転しており、特に終末期に患者と過ごした時間が短い家族に、「患者を救えなかったこと」に対して感情的な言動がある可能性が高いのです。このため、訪問診療や訪問介護施設では弔問に伺わないことを方針としておく必要があります。
「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告書」によれば、全事業期間における利用者・家族からの暴力等の経験率は、身体的暴力 45.1%、精神的暴力52.7%、セクハラ48.4%に達しています。医療には応召義務があるが、本人や家族が暴言や暴力を振るうケースは誠実に診療契約を遂行できない事情であり、診療を拒否しても応召義務違反にはならないと考えられます。しかし、電話での激しいクレームが数回あったという場合などは迷うでしょう。このため、外来でも在宅でも「診療中止基準」を設定しておくことをお勧めします。次のような基準を院内に掲示し、訪問歯科でも最初に契約書といっしょに家族に手渡しておくのです。
「診療中止基準」
以下の事態になった場合は、医院として診療を中止しますのでご了承ください。
1. 本人や家族からのクレームの電話が1回20分以上で、3回以上繰り返されるなど、合計で1時間以上にわたり、業務に支障が生じたとき。
2. 一度でも、本人や家族からの暴言や暴力があったとき。
3. 一度でも、本人や家族からのセクハラ行為があったとき。
4. 本人や家族が、歯科医師の治療計画を受入れず、自分の希望する治療や処置を強要したとき。
5. 本人や家族が、歯科医師に対して自分の希望する医薬品の処方を強要したとき。
厚生労働省でも在宅医療介護の現場での暴力、暴言があることを把握しているでしょう。このような具体的な指針を示していただければ、多くの在宅医療に携わる医師や歯科医師、看護師や歯科衛生士などの安全が守られるのではないでしょうか。
以上