病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「歯科衛生士の採用と確保対策を考える」
1.歯科衛生士の賃金が高騰している
歯科衛生士の採用が難しくなり、募集を出し続けても全く応募がないという医院が多い。令和2年度は卒業者数6,752名に対し、求人数は119,994人で19.4倍もの求人倍率であった。学卒歯科衛生士を採用できるのが奇跡、というような状態である。
そのなかで賃金が高騰を続けている。ある求人サイトの今年1月の金額の構成比をみると、図表のように26万円以上が85.5%を占めている。中途採用の募集金額で、渡切り時間外手当や住宅手当を含んでいるが、歯科衛生士の採用には28万円以上を提示しなければ難しいことが分かる。学卒歯科衛生士も確実に採用するには26万円を提示しなければならない。
日本看護協会の2020年3月の発表データでは、看護師の初任給は約27万円であった。これは夜勤手当や当直手当、通勤手当、住宅手当などが含まれた金額である。歯科衛生士には夜勤も当直もないので、歯科衛生士の初任給が看護師の初任給以上の水準になったといえるだろう。ちなみに、大卒初任給の平均額は、事務系21万9,402円、技術系22万438円である。
2.歯科衛生士採用の条件とは
学卒歯科衛生士が選ぶ条件は給与だけではない。次のような条件の歯科医院を希望しているという。①医療法人で経営が安定して永続性がある。②「協会けんぽ」で厚生年金、雇用保険がある。③複数の歯科衛生士が勤務しており有給休暇が完全取得できる。④日曜などの院外研修がなく、院内研修でスキルアップが図れる。⑤午後6時終業で土日休診。⑥駅から徒歩5分以内、または車通勤可。⑦基本給17万円以上。⑧退職金制度あり、⑨住宅補助あり。東京や横浜では、地方出身者に3万円から6万円もの家賃補助を支給する医院がある。⑩残業、休日出勤がないか少ない。しかし、このような条件を全て満たせる歯科医院はわずかだろう。
3.歯科衛生士から嫌われる医院とは
逆に、歯科衛生士から嫌われる歯科医院とはどんな医院だろうか。弊社の調査では、①忙し過ぎる。いつもバタバタして忙しそう。②歯科医師が怖い。先生が患者の前でスタッフを叱っている。③先輩が怖い。先輩の言い方がきつい。④診療が押しがちで帰りが遅くなる。⑤院内の雰囲気が悪い。先輩が歯科医師や他の人の悪口を言っている。⑥滅菌消毒が不徹底で感染リスクに鈍感。などである。実習生はよく院内を見ている。採用するには、これらの「嫌われる条件」を踏まないように気を付けなければならない。
4.まとめ
これらの歯科衛生士が求める条件をすべて満たせる医院はごく少数だろう。大切なのは「働き甲斐」と「働きやすさ」を伝えることである。特に、ホームページに採用ページを作りアピールポイントを掲載することが重要である。院内の雰囲気を美しい写真で伝える、複数の先輩歯科衛生士のコメントを掲載する、例えば車通勤可、ほとんど残業や休日出勤がない、土日どちらか休暇確約、住宅手当支給などをアピールしておくことが有効である。採用サイトを見る歯科衛生士は、必ず医院のホームページを見るからである。
歯科衛生士の確保人数で歯科医院の収益力が左右される時代になっている。採用が難しい以上、今雇用している歯科衛生士を大切にして、できるだけ長く勤務してもらう必要がある。
以上