病医院経営の今をお伝えするコラム
次世代事務長の選び方、育て方

【事務長はジェネラリスト】
医療業界は資格社会で、その資格を生かしたスペシャリストは多く育成されています。それでは、さまざまな分野に対応できるジェネラリストはどうでしょうか? 事務長は、さまざまな課題に対応しながら病院経営をマネジメントしていくジェネラリスト的存在だと思います。最近は、部署内でジョブローテーションを行ったり他部署からコンバートするなど、ジェネラリストを育てる動きも出てきています。
当院でも、総務課職員が医師事務作業補助者育成研修受講や診療情報管理士資格を取得したり、診療放射線技師がME 技術者資格を取得したりと他部門の知識や業務にも対応しています。また、リハ科から理学療法士を事務部に異動させるために、リハ科長と激論したこともあります。リハの単位も経営には必要不可欠ですが、医療従事者としての知識や目線を経営に生かし、病院の収益構造を理解しながらジェネラリストに育っていくことを期待しています。
このような動きの中で、さまざまな部署からジェネラリストである事務長に興味を持ってくれる人財が出て、それがさまざまな部署での人財育成に伝播、刺激になればと思っています。そうなれば、次は私の後継者選びです。
当院の役職定年は60歳で、私は50歳代半ばになり、次の事務長をどう選ぶかを意識しています。同業種経験者を外部から招聘する、異業種から招聘する、院内から昇進させるなど選び方はいろいろあり悩みますが、時間的にそれほど余裕はありません。
一つの案として、事務長職は「自発的に行動する意識を持つ」ことが必要なスキルの一つですから、やらされたり、ならされたりしてするものではなく、自ら事務長になりたいと思う者がやるべきです。そのために一番重要なのは「勇気」で、併せて「覚悟」と「信念」がなければ病院のリーダーである事務長として、組織や職員を守れるように育てていくことはできません(「リーダーに一番必要な資質は勇気」ウォルト・ディズニー)。
【次の事務長は院内から】
当院の事務長は、私を含め、過去にさかのぼっても院外からの招聘がほとんどです。
私は転職して事務長として当院に就職し、職場風土や文化の違いにスムーズな動きができず悩まされることが5年経った今でもあり、正直、業務ロスが生じた時もありました。
このような経験から、次は院内で育てたほうがよいと実感しています。そこで、事務長希望者を院内で募り、事務長候補として育てたいと考えています。
そのための要件として、院内職員の推薦者を10人以上集め推薦状を提出させます。
たくさんの職員のサポートがあって初めて事務長職は機能するため、現在の全職員150人のうち、わずか10人の推薦が取れないようでは事務長は務まりません。
職員の推薦が取れたら応募者本人だけではなく、推薦者の面談も行い、サポートと責任を共有します。小論文も提出させ、それを元にプレゼンテーションを行ってもらいます。
このようにいくつかの試験を経て、適性があると判断した場合は事務長候補者として育成していきます(表1)。
事務長候補者が複数いる場合は同様の教育・育成を行い、切磋琢磨しながらスキルを高めていきます。
こうして私の後継者である事務長を育てていきたいと思います(まだ、決定したわけではなく検討中ですが、面白い取り組みになると自負しています)。
【理念、基本方針、クレドを実践できる職員の育成】
当院は「患者様の立場に立った医療を提供します」という理念のもと、基本方針の実行・実践により「安心、安全で納得のいく質の高い医療サービスの提供と職員の成長」を実現するための職員育成を続けています。また、2017年に職員の総意として策定したクレドにより、「自ら考え行動できる」職員の育成も目指しています。
このように、理念、基本方針、そしてクレドを明確に掲げることができたので、次はそれらを人事評価制度に反映させる予定です。それができれば理念の実現につながり、理想の人財を育てる仕組みが手に入ります。当院は理想の人財を手に入れ、職員は自分が成長し、当院に貢献することでモチベーションアップや生きがい、誇りを実感できるようになるでしょう。
これが、病院の成長につながる最高の状態です。理念や基本方針、クレドは定めただけでは絵に描いた餅に終わってしまいますので、2021年度下期に実施する人事評価から連動させ、組織力アップに役立てています。
【面接で必ず伝えること】
私が採用面接や昇進面接で必ず質問し、伝えることが二つあります。私の中では、この面接からすでに「職員の育成」が始まっているのです。
一つは「プロとは、どういう人ですか?」という質問です。ある人は「いろいろなことができ、知識のある人」と答えました。
これは間違いではありません。それでは、新卒の看護師は技術や知識の習得はこれからなので、「プロではない」ということになるのでしょうか?
私は、「プロ」とは「手を抜かない」ことだと考えます。人が見ていようといまいと手を抜かずに同じ対応ができる人、手を抜ける時に手を抜かない人が「プロ」だと思います。ですから、新卒でもその能力、知識を最大限に発揮し、手を抜かなければ「プロ」なのです。「力は抜いて手を抜かないプロ」を目指しましょう。
もう一つは「自分のことを好きですか?」という質問です。医療現場では「患者さんのために……」、「職員のために……」、「人のために……」とよく言われ、自分以外の誰かを支援することが多い、ある意味奉仕の性質を持っています。そこには「自分のために……」という自己存在を表す言葉は見当たりません。
持論ですが、「自分のことがあまり好きではない」という人が、他人に優しく支援や奉仕ができるでしょうか? できたとしても長続きはせず、不安定な対応になってしまうと思います。相手にもその時の悪い印象や雰囲気は伝わることでしょう。
面接で聞いた「自分のことが好き」という人の多くは、自分の「ありたい姿」を想像し、理想の自分に近づいていくためにはどうしたらよいかを考えて行動しているようです。医療の仕事を長続きさせるには、「自分をどんどん好きになっていく」ことで自己肯定や自己存在、ありたい姿を実現していくことが必要だと思います。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2022年1月1日・15日号掲載分一部改編
