病医院経営の今をお伝えするコラム
事務長を目指す意義

体育大学卒の私は、病院の仕組みや医業経営を基礎から勉強したことがなかったので、知人の勧めもあり、公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 認定登録医業経営コンサルタントの資格を2007年に取得しました。この資格を取得するにあたって幅広く病院について学べたことで、医業経営に興味を持ち始めました。そのころから一度は「事務長の景色を見てみたい」と思うようになりました。それは、「上の景色を経験することでスキルが身につき、今以上の景色を堪能したいのであれば、上の景色が見えるところに立たなければ見えない」という考えに基づいています。事務長になった今、私はより素晴らしい景色を堪能したい、そのためにはどうしたらよいか、常に考えるようにしています。
人や病院とのネットワークやコネクションは幅広い景色を堪能させてくれます。資格やライセンス取得は見る目が養われ、素晴らしい景色を感じ、気づかせてくれます。まだまだ知らない事務長の景色を探して堪能したいと思っています。
皆さんは、今のポジションの景色を堪能していますか? もっと素晴らしい景色を見たくはありませんか?「事務長になりたい!」と思っている人で、今現在、事務次長の役職に就いている方、次のステージは事務長を意識されていると思います。「今の事務次長をやりながら経験を積み、事務長のスキルが身についたら挑戦してみたい」と考える人は結構いると思います。
しかし、私が事務長を経験して分かったことは「事務長のスキルは事務長を経験するからこそ手に入れることができる」ということです。事務長という、事務次長よりも上の「景色」を経験することによって、今までにない新しい事務長というスキルを身につけることができるのです。また、最初から事務長職を全うできると思っている理事長や院長はいません。その役職にかかわっていくうちに、徐々に新しい考え方、行動を身につけて事務長という役職を担える人財になれるわけです。
したがって、役職が上がっていくことに不安を覚える人もいると思いますが、最初から何もかもできる人はいません。むしろ、事務次長をやりながら事務長のスキルを身につけられると思っているのであれば、せっかくの成長のチャンスを失うことになります。次のステージに挑戦できる環境にあるのならば、積極的に挑戦するべきです。もし、挑戦後、自分には難しいと判断したのならば、役職を下げて仕切り直せばよいだけです。当院には本人の申し出による「希望降任制度」があります。
【事務長の魅力】
事務長職の魅力は、「事務長になった本人が感じる魅力」と「事務長を見て接して周りが感じる魅力」の2つがあると思います。
①事務長になった本人が感じる魅力
私は事務長になって2021年で6年目です。「事務長になった本人が感じる魅力」についてですが、事務次長までの時と比べて、組織の内外で「事務長だからできること、やれること、やっていいこと、決めていいこと」が増えました。院長から権限委譲される範囲が広がったのだと思います。責任の大きいポジションですが、できなかったことができるようになり、それが病院経営に直結して貢献できること、そして、院内外の組織や人に対してかかわりを持てる範囲が広がったということは、事務長職の魅力だと感じています(別表)。
しかし、その範囲は自分で広げていくことが必要です。事務長になったからといって、いきなり権限委譲やかかわりが広がることはありません。事務長になってから大事なことは、院長、看護部長、部下や仲間が求める期待や成果をどれだけたくさん拾い上げ、実行、実現できるかであり、それを継続することが信用と信頼につながり、「やれること」はどんどん広がっていくと思います。
そんな出来事が事務長になって3年目にありました。院長と2人で食事に行った時に突然、「これからは、事務長がやりたいようにやっていいからね」と言われました。このひと言は、転職してきた私にとって心が救われ、とてもうれしく感動しました。院長との信頼関係が構築され、権限委譲が少し広がった瞬間でもありました。この言葉が今の私を支えています。もちろん、その言葉の意味や重みはしっかりと受け止めています。
事務長の一番の使命は「安定した経営の構築」だと思いますが、職員が生きがいと誇りを持てる組織、職場にしていくこともとても大事な役割だと思っています。そんなことがたくさんできる事務長職にとても魅力を感じています。
対外的な魅力は一例ではありますが、熊本県では事務長になればステータスシンボルである「熊本県医療法人協会事務長会」に入会できます。事務長会のメンバーになれたことは、若い時から憧れていた私にとってとても魅力的なことです。
歴代の事務長会の事務長は、人格的にも能力的にも素晴らしい方々ばかりで、一流の病院経営管理者と感じました。私は医療業界で一流になりたいと思っていますので、「一流になりたいなら一流の人と付き合う」ことで、一流に近づけると思っています。
また、公益財団法人日本医療機能評価機構の評価調査者応募資格は、事務長であることが一つの要件です。公益社団法人全日本病院協会の病院事務長研修では、職歴1年以上の病院事務長が受講要件の一つとされています。
このように、事務長になることでいろいろな景色が準備され、それを見られるのは魅力的なことです。
②事務長を見て接して周りが感じる魅力
一方、「事務長を見て接して周りが感じる魅力」は事務部のトップという魅力だけではなく、「事務長になりたい」と思う人がどれだけいるかということが魅力や憧れの指標になると思います。次世代にスムーズにバトンタッチしていくためには、周りの目に映る魅力は大事です。事務長はそういう憧れられるような仕事ぶりや振る舞い、実力や人間性を身につけることが必要だと思います。
事務長自体が魅力ではありませんので、事務長職の価値を高め、魅力ある役職と魅力ある人物になることを意識することが必要です。眉間に皺を寄せて額に汗して「私、頑張っています」、「大変、大変」というオーラを出している事務長に、誰が憧れを抱くでしょうか? 事務長はあんなに大変なら、なりたくないと思う人が多くなるのではないでしょうか?人が見ている時にはサラッとかっこよく、見ていない時に努力して懸命に取り組む、そのために私は「当たり前のことを、当たり前のように、当たり前にできる」、そういう「当たり前のことができる事務長」を心がけています。プレッシャーを楽しむ、ストレスを楽しむ、これも事務長だからこそできる魅力だと思っています。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2021年10月15日号掲載分一部改編
