病医院経営の今をお伝えするコラム
事業承継の実践事例
【医療機関概要】
○A法人・Aクリニック(引渡側)
開院:1983年4月
診療科:整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・皮膚科
病床数;無床
整形外科外来患者数(うち新患数); リハビリ;
・令和3年度14,752人(1,161人)/年 29,787人/年
・令和4年度15,347人(1,263人)/年 31,219人/年
・令和5年度15,173人(1,282人)/年 33,626人/年
○N法人・N病院(引受側)
開院:1977年1月
診療科:整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科・外科・内科・麻酔科
病床数:103床(一般病棟49床/ 地域包括ケア病棟54床)
外来数:平均約130件/日
手術数:約1,200件
【事業承継の経緯】
今回の承継は、皮膚科、整形外科、リハビリテーション科、リウマチ科を標榜するA法人が皮膚科のみの診療を継続し、残る整形外科、リハビリテーション科、リウマチ科の診療科をN法人が引き継ぐという、一般的なM&Aとは異なる形態で実施した。土地、建物は賃貸借契約を希望。
承継理由は後継者不在による院長(整形外科医)勇退および整形外科存続のため
承継した診療科に加えて新たな診療科を開設することにより、医師確保(院長)と患者層の拡大につなげたいと考えた。
医師の増員やスタッフの継続雇用、電子カルテ導入などにより運営体制を大幅に刷新した。
患者満足度の低下を招くことなく地域医療の継続に努めるとともに、N法人にとって初めての事業承継であったため、様々な課題に対応しながら開院に至った。
【事業承継前から開院まで】
2023年1月:Aクリニックの整形外科医師の高齢化もあり、コンサル業者を通じてN法人へ事業承継の依頼あり。
2023年5月:Aクリニック施設見学(理事長、事務長)
2024年3月:承継意向表明書提出(N法人→A法人)
2024年3月:承継承諾書(A法人→N法人)
2024年5月:幹部三役意見交換(両法人の理事長・院長・事務長)
2024年8月:診療所事業譲渡契約書締結
2024年8月23日:両法人の職員へ公表
⇩約7カ月
2025年3月17日:事業譲渡
⇩約2週間
2025年4月1日:「新クリニック」開院
【事業承継の実施判断】
○Aクリニックの状況
◆2022年度に病床を返還。
◆小児整形を含む外来診療とリハビリを主に実施。
◆経営状況は安定していた(決算書直近3期分取得)。
○外部環境(地域特性)
◆N病院の患者層が少ないエリア。
◆新たな地域患者の獲得が期待できる。
◆N病院と同じ通り沿いであり車で10分程度。
◆JR駅も徒歩圏内で、県外から患者獲得も見込める。
○病院管理者の確保
◆開業を志す医師(外科)との出会い。
◆開院直前に整形外科医も確保(元院長は1年契約)。
○N病院への効果
◆検査や手術でN病院との連携した診療が実施できる。
◆来院患者の少ないエリアの患者獲得。
【事業承継の内容】
・A法人は、皮膚科・整形外科・リハビリテーション科などを標榜しており、当初は整形外科の承継を依頼された。
・N法人の要望として「整形外科」の承継ではなく、医療の承継であれば可能で、A法人は診療科は問わないとの意思確認ができた。
・2025年3月16日迄既存クリニックの診療、2025年4月1日開院予定。
【なぜ、整形外科の承継ではなく医療の承継に拘ったのか?】
○N病院の状況
◆整形外科医のマンパワー的にぎりぎりで展開。
◆N病院から新クリニックに人事異動させる余裕なし。
◆マンパワーの問題で一度承継を断った。
○他科の医師確保
◆N病院の理事長が長年の知り合いである外科医に直接声をかけた。
◆外科医は40歳代であり、開業を考えていた。
◆N病院理事長と外科医の意向が合い、マッチング。
○その他
◆N病院が展開する整形外科専門だけでは、経営的に難しい環境になっていた(患者減や競合など)。
◆他科の展開をしていかなければ将来的な存続に危機感を抱いていた。
【開院準備(抜粋)】
○診療科の追加(「鼠径ヘルニア」診療)
◆診療の運用方法の検討。
職員にも経験者がおらず、また外来はクリニック、手術・入院はN病院で実施するためその連携体制をどのようにしていくか?
⇩
◆院内での職員向けの勉強会。
◆他施設(他県)の病院見学など。
○「鼠径ヘルニア」診療の周知
◆医療機関名に「鼠径ヘルニア」が付いているのは本県では初。
◆データ上は多くの潜在患者がおり、特異性を有するため、新規患者の獲得も可能。
◆別分野の診療のため職員も不安が大きかった。
⇩
◆県内医療機関への挨拶(2月5日~3月19日の間、外科医、事務長が約80件訪問)。
◆新聞・テレビ等の活用など。
○各手続きについて
◆事業承継の形態が伝わらない。
◆他専門家の話では遡及指定可能との事だったが、、、不可であった。
◆厚生局、保健所、市役所、支払基金等すべての担当者への説明に時間を要した。
○診断日、リハビリ起算日等の取扱い
◆各所の見解の違いもあり、やりとりが重なり時間を要した。
○電子カルテ導入・診療情報の扱い
◆準備期間が短い。
8月の公表後に準備開始。ネットワークの構築、電子カルテの設定、医師増員による対応など。
◆電子カルテ運用の教育。
Aクリニック職員は電子カルテ運用が初めてであり、使用方法のトレーニング・指導の時間がなく、打合せの時間も不十分など。
◆患者カルテの管理・引き継ぎ。
患者情報・カルテの引継ぎについては可能であったが、Aクリニックは紙カルテで皮膚科と整形外科の内容が一つとなっており、どのように管理するか?
⇩
◆N病院との連携のためN病院のサーバーと通信させN病院でもクリニックのカルテが見られるようにネットワークを構築した(情報共有の円滑化、コスト削減)。
◆3/17から本格的な打合せ・準備。3月~4月はクリニックへN病院SE・ベンダーが常駐して対応。
◆直前となったがシミュレーション、リハーサルを実施など。
◆N病院の電子カルテサーバーを利用して、クリニックの電子カルテ環境を構築。
◆データベースを施設間で共有。
◆共通IDで電子カルテの参照可能。
◆各ファイルデータも共有可能。
【行政相談】
(保健所)
・カルテの引継ぎは提出書類等なく対応可能。
・Aクリニックの診療所名称を変更する際の「定款変更認可申請」時に収支計画書の添付は不要。
(厚生局)
・カルテの引継ぎは「保健所の指示に従います」であった。
・診療報酬の遡及指定は不可となる見込み。
「理由」
・遡及指定の対象は医療機関が引き継がれる場合。
・本件はA法人が運営する保険医療機関(皮ふ科医院)は、そのまま保険診療を継続して行うため、単に別法人(N病院)が診療所を新規開設する事案とみなし、遡及指定の対象外として判断。
(初診・再診の取り扱い)
・2025年4月以降、引き継いだ患者をAクリニック元院長が初診察した場合は再診。
・新規雇用した整形外科医が引き継いだ患者を初診察した場合は初診。
・医師によって負担額が変わるので引き継いだ患者は再診で対応。
【開院後の状況(メリット・効果検証)】
◆鼠径ヘルニア診療
・外来は半日で2~3名。
・ほとんどが手術対象となるため、5月以降は手術件数が増加している。
・2025年4月~2026年1月で手術件数108件。
・クリニックでの日帰り手術も今後検討。
◆Aクリニックの元院長も診療を行っており、これまでの患者も継続して来院している
◆2025年7月よりN病院の内科医師が2回/週、外来診療を行っている
◆整形外科医師が不在時にはN病院からの代診で対応
◆外来患者数は月平均1,300人→2,150人、うち新患106人→225人
◆検査や手術でN病院へ紹介する症例も増えており相乗効果も出ている(クリニック関連のN病院での月売上1,500万円前後増)。
◆開院当初は、運用の変更に伴い待ち時間が増えクレームも多かったが適宜対応できている。
【まとめ】
◆通院患者の維持ができており、N病院と連携しながらリハビリテーションも継続。
◆地域医療の維持に繋がっている。
◆短期間の中で各部門が全力で準備に取り組んだことでチーム力向上につながったと感じている。
◆しかし、方向性をその都度決定していたため後手に回る場面もあった。
◆円滑な準備のためには情報共有と方向性の統一必要だったと感じた。
◆今回の事業承継の対応を通じ、各種行政手続きの負担や診療体制・診療システムの構築並びに運営体制の確立に時間を要した。開院後も修正しながら体制を整えている。
◆母体であるN病院のバックアップがあって、上記対応が出来たが、単独開業では開業までに負担が大である。
◆A法人の希望で職員の混乱を避けるため、公表を8月の同日に行った。準備期間が短く不安と負担があった。
◆開業後の経営的な検証も必要である。
◆職員の雇用継続と異動、新規採用には慎重な対応が必要。旧条件をそのままスライド。賃金、有休、その他。
◆開院までに退職者が増えてしまうと、開院が遅れる可能性もある。
◆内覧会は効果的であった。多くの開業医に足を運んでいただいた。開院後の紹介にもつながっている。
◆引渡対象および引渡除外医療機器・備品の選定、処分に時間を要した。
◆また、他院からの鼠径ヘルニア用中古医療機器売買にも時間を要した。
医業承継支援プロジェクトチーム第4回会議(2026年2月19日)説明資料より一部抜粋。

