病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「歯科医院数の減少地の将来と対策」
1.はじめに
令和6年度歯科医師会の社会保険指導者講習会資料が公開された。
ここに掲載された都道府県別の平成29年から令和4年までの歯科医院の増減数と、国立人口問題研究所の人口の増減率のデータから、47都道府県のうち、歯科医院が減少する道県の将来を予測した。
2.歯科医院の減少と人口減少の関係
図表は、歯科院の減少が大きい道県を抽出し、趨勢から令和22年(2040年)までの歯科医院の減少率と人口減少率を比較したものである。これらの地域は今後どうなるのだろうか。
① 人口減少率と歯科医院減少率がほぼ同じ地域:
この地域(青森、岩手、高知、北海道、佐賀、広島)では、人口10万対歯科医院数は変動しない。しかし、人口も歯科医院も減少していくため、人口が次第に疎になる郡部では、歯科医院数も高齢化などによって減少していく。その結果、歯科医院は都市部に集中し、郡部では疎になっていくだろう。
② 歯科医院の減少率が人口減少率より大きい地域:
愛媛県は歯科医院の減少率が人口減少率の10倍、島根県は、歯科医院の減少率が人口減少率の2倍である。このような地域では、沿岸部や山間部では無歯科医地域ができるだろう。市街地でも歯科医院の廃業が続き、残った歯科医院に広大なエリアから患者が集まるだろう。島根県ではすでに山間部に無歯科医地域ができているが、今後も歯科医院が減少していくと予想される。このような地域では歯科医療の提供体制を抜本的に考えなければ、歯科医療難民が広大なエリアで発生する危険がある。
③ 人口の減少率が歯科医院の減少率より大きい地域:
秋田県は人口減少率が歯科医院減少率のほぼ倍である。県内全域で人口が減少するなかで歯科医院も減少する。市街地でも外来患者の高齢化が進み、訪問診療や送迎を要する高齢患者が増えると予想される。長崎県では人口の減少が激しいのは離島で、長崎市内や佐世保、大村などの市街地に人口も歯科医院も集中している。離島では今後も人口が減少し、歯科医院の立地が難しくなり、次第に市街地に移転していくと予想される。
3.まとめ
人口と歯科医院の減少のなかで、歯科医療難民を生じさせないための対策の1つは、巡回診療に関する規制緩和である。スーパーマーケットがワゴン車で移動販売をしているが、ワゴン車に歯科用ユニットを積み込んで巡回しながら、歯科医療を受診できるようにする必要があると考えられる。いわば「デンタルカー」、沿岸部では小型船舶による「デンタルボート」である。そのための規制緩和と、参入を促すための診療報酬の改定が必要になるだろう。
対策の2つ目は、訪問エリアの拡大である。すでに北海道などでは半径16kmが障害になっている。将来的には半径30kmぐらいまで拡大するか、地域ごとに半径を設定する必要があるだろう。
対策の3つ目は、残った歯科医院の診療体制の強化対策である。どの地域でも、残った歯科医院に広域的に患者が来院するとみられるが、一軒あたりのユニット台数や歯科医師数、歯科衛生士数には限りがある。若年労働者の減少によって若いスタッフの確保も困難になると予想される。このため、地域の拠点歯科医院を定め、勤務医や歯科衛生士を斡旋し、年中無休化する、訪問診療のルート数を増やすなど、医療資源を最大活用できる規制緩和と補助措置が求められる。令和22年(2040年)はもう15年先に迫っている。