病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「歯科衛生士の需給と処遇を考える」
1.はじめに
歯科衛生士の採用難が続いている。
「全国歯科衛生士教育協議会資料」によれば、令和4年度(令和5年3月卒業)は、就職者6,371名に対し、求人人数は148,289名で、求人倍率は23.3倍と過去最大の求人倍率となった。歯科衛生士を増やすにはどうすればよいのだろうか。
2.産業界との賃金格差が縮小している
採用難を受けて歯科衛生士の賃金水準が上昇している。
東京、横浜の学卒歯科衛生士では初任給に27万円~30万円を提示する医院も多い。しかし、令和5年、令和6年と産業界の賃上げが進み、2024年度の初任給額は、短大卒が約20万円、4年生大学卒が約24万円で歯科衛生士の初任給に追いついてきた。
歯科衛生士は賃金カーブが緩やかであるため、生涯年収では産業界よりも低いのが現実である。現実には、福利厚生や退職金などでも産業界と中小歯科医院では格差がある。経済が停滞していた時代には歯科衛生士は「確実に就職できる職業」として人気だったが、今は産業界も人手不足で、短大卒でも4年生大学卒でも90%以上の就職率である。
初任給で差がつかず、生涯年収や休暇取得、福利厚生などでも差がつくのでは、歯科衛生士めざす学生が減少するだろう。
3.賃金水準と処遇を改善する必要がある
臨床研修終了1年目の歯科医師の賃金が高騰し、今では月収が40万円以上になっている。彼らの多くは15万点の診療報酬を上げられないだろう。
歯科衛生士は、「口管強」の歯科医院でSPTやP重防を担当させれば、1時間あたり約1万円の診療報酬を稼ぐ。1日7時間で7万円、所定内22日稼働で月間15万点以上を売り上げる。技工料も材料代もかからないため、毎月約100万円、年間1,200万円以上の人件費控除後の利益を生み出す。
しかし、現状の賃金はせいぜい30万円で、40万円を得ている歯科衛生士はほとんどいない。
休日も問題である。
最近はお休みの取り方を重視する歯科衛生士が増えており、求人サイトのグッピーにも「年間休日120日」という条件選択項目が設定されている。「年間休日120日」とは、1年間の52週で週休2日の場合、休日が104日、これに祝祭日の16日を加算した日数で有給休暇は含まない。この「年間休日120日」は産業界では常識である。
しかし、多くの歯科医院では祝祭日も振替で診療をしており達成できない。福利厚生でも、歯科医師国保と協会けんぽでは保障内容に格差があり、福利厚生でも大企業には及ばない。退職金も見劣りがする。
4.まとめ
賃金水準や処遇を改善するには、まず保険診療報酬を増やす必要がある。ベースアップ評価料の継続はもちろんのこと、諸物価や産業界の賃金水準の上昇にあわせて診療報酬を底上げしていく必要がある。そのうえで、適正な分配によって、妥当な賃金水準を目指す必要があるだろう。
少子化と高齢化が進むなかで、成人病の予防に予防歯科が有効であるとされ、診療報酬改訂でも介護報酬改訂でも、「リハビリ、栄養、口腔ケア」の重要性が盛り込まれた。オーラルフレイルの段階から歯科医師が美味しく食べられる口腔を作り、歯科衛生士がその口を清潔に維持して誤嚥性肺炎を予防し、歯周病の予防を通じて糖尿病や認知症、各種の成人病を予防することで、国民医療費の削減効果が得られるというストーリーが成り立つ。つまり、歯科衛生士の就労希望者を増やし、口腔ケアを普及させることが医療費削減対策の一つとなるわけである。
そのためには、診療報酬の引き上げと適正な分配を通じて、歯科衛生士の賃金水準を産業界の上昇スピードよりも向上させ、福利厚生や退職金など総合的に処遇の改善を図る必要があるだろう。