病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「これからの開業を考える」
1.はじめに
歯科医院の倒産件数が増加している。
帝国データバンクによれば、2024年1-6月に発生した「歯科医院」の倒産と休廃業・解散は合計85件。過去最多を大幅に更新する可能性が高いとしている。
ただし、これは医療法人の法的整理だけで、個人立医院の自己破産や自主廃業などは含まれていない。これらを含めるとこの何倍もの件数になると想定される。
要因として、競合関係の変化に対応できなかったケース、高齢になり施設も老朽化し、オンライン請求に対応できないケースや、コロナのゼロゼロ融資を運転資金に使ってしまい返済不能に陥ったケースなどが考えられる。さらに、大型歯科医院や多店舗展開型の歯科医院と競合し、影響を受けた歯科医院も多いと推測される。
それでも新規開業をめざす若手歯科医師は多い。しかし、借金を抱えて勤務医に戻ったり、自己破産したりするケースも起きている。
今回はこれらの状況を踏まえ、開業を考えるうえで抑えておくべきポイントを考えてみたい。
2.開業で考えるべきポイント
(1)開業場所の選定が最重要である。
外装や内装などは後から修正できるが、一旦開業すると開業場所を変えるのは困難だからである。移転費用がかかるほか、個人医院では閉院と新規開設の扱いになり新規指導もある。
開業場所の選定にあたっては、駅前なのか、住宅地なのか、古い市街地なのかなど立地特性を踏まえて、次の条件を考慮する必要がある。
①1階であること。1階と2階の集客率の差は数倍になる。2階以上の物件は大型商業施設のテナントで人の動線に接している場合でない限り避ける方が無難である。
②最低でもユニット6台以上置ける場所であること。6台以上あれば経営効率が大きく改善する。
③郊外では駐車場がユニット台数以上確保できること。予約制でも会計待ちの患者と診療待ちの患者が待合室に共存する時間帯ができるためである。
④都心では最寄り駅から徒歩5分以内であること。集患だけでなく、歯科衛生士の採用にも重要である。
⑤近くに小学校や中学校があること。特に中学校は校区が広いため母親の目につきやすく認知度が高まる。
(2)設備計画のポイントは、
①ユニット6台以上のスペースを確保したうえで、最初は4台からスタ―トする。
②CTやマイクロスコープは最初から導入する。
③クラスBオートクレーブ、ジェットウォッシャーなども最初から導入する。
(3)採用のポイントは、
①「年間休日120日以上」「社会保険完備」にしておく。
②歯科衛生士は常勤2名のオープニングスタッフ確保が目標である。歯科衛生士は自分の給料以上の売上利益をあげてくれるからである。
③受付助手は管理栄養士を採用する。管理栄養士は栄養学だけでなく内科学や薬学も学んでおり、口腔機能低下症の検査や栄養指導など、口腔内に手を触れない範囲で担当させることができ、重宝する。
④保育士を採用する。非常勤で子育て中の保育士を数名確保できれば、午前中や一定曜日の託児サービスが可能になる。
(4)資金計画は、自己資金と親族からの無利息の借入で開業資金の半額程度を用意しておく必要がある。借入金 額が大きくなると当然ながら返済額が大きくなるからである。例えば1年据置で6千万円を借入れると、返済額は元利合計で年間約765万円、元金返済だけで686万円になり、生活費を賄えなくなる。住宅ローンを抱えると、借入限度額が少なくなり返済リスクも大きくなるので、マイホームは経営が軌道に乗るまで待つ必要がある。
3.まとめ
開業にあたっては、①立地選定、②設備計画、③採用計画、④資金計画を間違わなければ大きな失敗はない。そのなかで立地選定が最重要である。ここで間違えると他の項目でのリカバリーは困難だからである。
私は立地選定は焦らずに1年から2年の時間をかけてじっくり探すようにアドバイスしている。良い物件との出会いが歯科医師人生を決めてしまう。焦らずに良い物件を探すことが成功への近道である。