病医院経営の今をお伝えするコラム
職員力を活かした病院経営~理念の浸透と人財育成~

【はじめに】
職員を経営に巻き込んだ病院づくりにおいて、「理念」の浸透が最も大切である。
理念は「何のために当院が存在しているのか?」を示す非常に大切なもので、理念が無ければ職員力を経営に活かすことは不可能であると言っても過言ではない。
そこで、職員への理念の浸透と職員の言動が理念と合致しているかどうかを確認する仕組みを、人事考課に取り入れたのでその導入効果や課題などを報告する。
【方法(行動評価)】
当院の人事考課は、職員の自立、能力開発および働きがい・生きがいを醸成し、経営効率の向上に資することを目的に実施している。
2020年度までは、情意評価と執務評価のみで実施していたが、2021年度からは「組織のありたい姿」、「組織が求める理想の人財の姿」として掲げている「理念」、「基本方針」、そして当院独自に策定した「クレド」を「行動評価」として人事考課に加えた。
それらの浸透度や実行度、遵守状況の把握および職員の行動が規範に沿った状況かどうか人事考課により確認する。
行動評価の評点は、合計30点でその浸透度・実行度を評価している(理念3点、基本方針5項目各3点合計15点、クレド4項目各3点合計12点)。
行動評価の結果が良好になっていれば、理念などが浸透し、職員の行動が規範に沿った組織が求める理想の人財の姿に近づいていると考える。
導入時からの評点推移と資格等級※)別比較、被考課者および考課者からのヒヤリングなどで導入効果を検証した。
【考察】
1.行動評価の中でも理念は早期から浸透、実行できている。
シンプルでわかりやすいということに加え、理念を人事考課に加える前から、新人研修や朝礼時の唱和、名札裏への掲載などにより周知を図ったためと考える。
2.行動評価は右肩上がりで年々高くなっている(説明画像)。
年2回の人事考課に行動評価を導入したことにより、理念などを意識して実行する機会が増えたためと考える(聞き取りで意識しているとの回答多数) 。
3.資格等級上位の職員は行動評価が高く、日常から理念などを意識して行動につなげ、規範に沿った実行ができていると考える(聞き取りで意識しているとの回答多数)。
4.全体的に行動評価の自己評価と上司評価で差があり、自己評価の方が低い割合になっている(説明画像)。職員からは、一部の行動評価が何に結びついているのかがわからないとの意見有り(聞き取りによる)。理解ができていないことで、共感できず行動や浸透に結びついていないことが考えられる。被考課者および考課者研修・訓練が必要。
5.クレドは、早い段階で浸透、実行に繋がっている。
トップダウンで策定した理念、基本方針とは違い、クレドは職員の総意によりボトムアップで策定したものであるため、より身近な指針として理解度が高く、早期の浸透や実行に繋がったとのではと考える。
最近では職員から「これってクレドだよね!」という言葉が多く聞かれるようになったのも、クレドが身近なことの表れであると考える。
【おわりに】
人事考課に理念などの行動評価を導入したことは、「理念や役割を頭と心にインストールする」ことであり、定期的に評価することで職員は評価されることを意識し、組織が求める理想状態を意識した行動をとることが期待できる。
そのため職員を何で評価するかを明確にしておくことが必要で、その評価結果を本人にフィードバックし認識してもらうことが大切。
今回の結果から人事考課に行動評価を導入したことは、浸透と実行に効果的であったと考え、継続することにより組織が求める理想の人財の姿に近づいていくものと考える。
第74回日本病院学会一般口演、2024年7月4日、○西村俊也、川中洋平、辻口志穂、藤本徹、成尾政一郎
