病医院経営の今をお伝えするコラム
SDGs策定とその成果

【はじめに】
2020年1月から全世界で新型コロナウイルス感染症が蔓まん延えんしましたが、必要な医療を継続して受けることができるよう、患者さまを懸命に支えながら、職員は恐怖や不安と闘い窮屈な日常を強いられていました。また、皆で集まって想いを共有する機会が減り、心理的なまとまりが生み出せずどこかギクシャクしたり、孤独で目標を見失いそうな感覚を受けていました。そんな中「SDGs」に取り組むことで、職員の心理的なまとまりを生み出せるのではと考え、取り組みを開始しました。
成尾整形外科病院(以下、「当院」という)が策定した「SDGs」の具体的な取り組みや成果、今後の方針について紹介します。
【SDGsへ想いを拡げて】
日本でもSDGs(エスディージーズ)という言葉をよく聞くようになりましたが、われわれはなぜ、このSDGs に取り組むのでしょうか?
SDGsとはSustainable Development Goals(サステナブル ディベロップメント ゴールズ)(持続可能な開発目標)の略で、世界のすべての人が幸せになるためにみんなで取り組む目標のことです。
われわれがSDGs に取り組む理由は、社会貢献や企業(病院)としての使命ということもありますが、新型コロナウイルスと闘っている今、皆で集まって想いを共有して心理的なまとまりを生み出す場面が減り、どこかギクシャクしているような感覚を受けています。さまざまな考えの職員が存在する院内で、このSDGs に取り組むことにより、一同が同じ物事や目標を共有することで、心理的なまとまりを生み出せるのではと思い、コロナ禍だからこそ、こういったことがとても必要ではないかと感じています(クレドも心理的なまとまりを生み出せるのではという想いで進めています)。
その輪を職員から患者さまや関係する人々に拡げていければと思い、SDGs に取り組むことにしました。
当院では、ゴール(目標)の1(貧困をなくそう)、3(すべての人に健康と福祉を)、4(質の高い教育をみんなに)、5(ジェンダー平等を実現しよう)、7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)、8(働きがいも経済成長も)、9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、10(人や国の不平等をなくそう)、11(住み続けられるまちづくりを)、12(つくる責任つかう責任)、13(気候変動に具体的な対策を)、17(パートナーシップで目標を達成しよう)を、「持続可能な開発目標」に掲げました。しかし、SDGs の本質は17の目標は相互に関連しており、それを包括的に解決することが本当の意味で解決に向かうとも言われています。
つまり、SDGs に関連する世界で起こっている問題や課題、今後世界がどういった方向に進んでいこうとしているのかという全体像を把握し、それぞれがお互いにつながっている、という感覚を持つことが大切です。
より良き世界を創り出すため医療法人の立場で、当院のクレドにも掲げている患者さま、職員、地域(医療機関)、協力業者等と17番目の目標である「パートナーシップ」を保ちながら活動を行っていきます。
また、このつながっている世界に対して行動し、国際社会の一員としてグローバルな視点をもち、さまざまな施策においてSDGsの理念を踏まえた取り組みを行い、貢献していきます。
【SDGsの取り組み~きっかけから開始まで~】
SDGs が2015年の国連サミットにおいて全会一致で採択されて5年が経過した2020年。日本では医療機関での認知度や取り組みが他企業に比べかなり低いと感じていました。しかし、より良き世界を創り出すため医療法人の立場で、このつながっている世界に対して行動していくことで、たくさんの場面で貢献できるのではと思い、取り組みを検討しました。
まず、当院が取り組んでいるさまざまな活動の中からSDGs の趣旨につながるものを院長、事務局長、総務課係長で整理し、「SDGs 案」として各部署長21人(副院長が委員長)が出席する運営会議に諮りました。部署長から出た意見、アイデア等を参考に新たな「SDGs 案」を作成し、全職員へメールにて発信し、意見やアイデアを求めました。この意見やアイデアを参考に再度整理を行い、最終的には院長が運営方針やクレドに沿って決定しました。決定された取り組み内容はコロナ禍ということもあり、院長から書面にて全職員へ発信され、2020年11月から取り組みを開始しました。
【2021年度からのSDGsの取り組み】
2020年からたくさんのSDGsに取り組んできましたが、特に2021年度から取り組んだSDGsについて紹介いたします。
〈開発途上国の支援〉
飢餓に苦しむ世界の子どもに給食を支援している認定NPO 法人「TABLE FORTWO」があります。先進国で1食とるごとに開発途上国に1食が送られる取り組みで、当院の食堂で注文すると、開発途上国の給食1食分に当たる20円を寄付するような支援ができないかと考えています(写真)。
職員一人ひとりが気負わずにできる小さな取り組みが多くの人の助けとなり、貧困問題の解決につながるのではと考えています。
〈ECOキャップ運動〉
日頃利用しているペットボトルのキャップをリサイクルすることにより、雇用や医療・生活支援、CO2削減に貢献していければと考えています。ペットボトル自体も廃棄ではなくリサイクルする意識につなげていきたいと思います(写真)。
【終わりに】
われわれが取り組んだ「SDGs」は、必要な医療を今後も継続して提供できるよう安定した病院運営をする一つの手段と考えています。それは、人口減少が問題になっている現在、近い将来起こり得る患者減のみならず、「働き手不足」の問題に視点を置いた取り組みでもあります。
職員の勤務意欲の向上や心理的なまとまりには、まずは当院や職員同士の「ファン」をたくさん増やすことが必要と考えています。職員は当院で働くことが誇りや自信、モチベーション、生きがいにつながり、それが、職員家族や患者さま、地域社会、取引業者など当院に関係するすべての方々へ「ファンづくり」として波及する、いわゆる「マグネットホスピタル」として職員も組織も成長し続けるものと確信しています。
このような取り組みは小さな一歩かもしれませんが、活動を継続することでメッセージとして多くの人々へ伝わり、幸せで豊かな社会の一助となるよう貢献していきたいと思います。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2021年5月15日号掲載分一部改編
