病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「ベースアップ評価料を算定しよう」
1.はじめに
令和6年の診療報酬改定でベースアップ評価料が設定されました。令和6年度に+2.5%、令和7年度に+2.0%のベースアップを目指すというものです。厚生局に確認したところ、このアップ率はあくまでも目標値であり、ベースアップ評価料の範囲内で歯科衛生士や歯科助手などに分配してほしいということでした。国が賃上げの原資を負担してくれるわけです。算定しましょう!
2.なぜベースアップ評価料を算定すべきなのか
①他産業の賃上げが進んでおり、医療人材の採用が困難になる可能性がある
首都圏の歯科衛生士の初任給はここ数年26万円~27万円です。数年前まで4年生大学卒の初任給が21万円程度でしたので、看護師、歯科衛生士ともに高給の医療職種ということで人気がありました。しかしコロナ以降、産業界の初任給が上昇を続け、2024年は4年生大学卒の初任給が24万円程度まで上昇してきました。
歯科医院での勤務内容は、土日が休めない、夜が遅くなる、感染リスクがある、小規模であるため休みたいときに休めないなど、一般企業と比べて魅力的とはいえません。初任給は高めでも職種によって賃金水準はほぼ決まっており、一般企業のように定年まで勤務すると年収が上っていくわけでもありません。つまり、このままでは若手の医療人材が採用できなくなる可能性があるのです。令和4年度の歯科衛生士養成校の入学定員充足率は84.8%で、63%の養成校が定員割れという状態でした(全国歯科衛生士教育協議会)。このままでは、これがますます低下していく可能性があるのです。それにつれて今後ますます歯科衛生士の採用が難しくなっていくのです。
②算定しない場合は採用面などで不利になる
ベースアップ評価料を算定しない場合は、算定した歯科医院との賃金水準に格差が生じ、歯科衛生士などの転職リスクや不満に直結する危険がでてきます。その結果、自力で賃上げをせざるを得ない状態に追い込まれると予想されます。そして、人件費率が上昇し採算性を圧迫していくことになります。
③算定しない医院が増えると、次回改定で廃止される可能性が高くなる
ベースアップ評価料を算定しないと、これまで医療界や歯科界から、診療報酬が上がらないから勤務医やスタッフの賃上げができない、と言い続けてきたことと矛盾することになり、次回改定で廃止される可能性が高くなります。
④2年間では意外に大きな金額になる
小規模な医院では、得られる金額の割に手続きが面倒であるため、院長の手が何時間もふさがるなら診療で稼いだほうが良いという意見もあるようです。ベースアップ評価料(Ⅰ)は、一般的な規模の歯科医院で月額3万円程度になるでしょう。2年間では約72万円になります。せっかく国が40歳未満の勤務医、歯科衛生士や歯科助手などのベースアップの人件費を負担してくれるのですから、これを算定しない手はありません。
3.まとめ
ベースアップ評価料による5千円程度の昇給と、医院が通常行っている定期昇給の3千円程度を合わせれば、合計で8千円程度の昇給になります。スタッフ達は大喜びでしょう。
しかし、医院は社会保険料の事業主負担と時間外手当も増えるので、金額の設定は慎重にする必要があります。
また、次回改訂でベースアップ評価料が廃止されても打撃にならないように、ベースアップ評価料がなくなると廃止される月例の基本給の新設としておく方法があります。雇用条件通知書や賃金規定の改正で、ベースアップ評価料が廃止された場合はこの手当を廃止することを明記しておくわけです。
いずれスタッフ達の耳にも入り、当院だけ算定していないと思わぬ不満が出て退職されたり、院内の雰囲気が悪くなるリスクもあります。この機会に算定しておくことをお勧めします。