病医院経営の今をお伝えするコラム
クレド策定とその成果

【はじめに】
働き方改革が進む中で職員の勤務意欲の向上は、医療機関にとっても喫緊の課題となっています。そのため成尾整形外科病院(以下、「当院」という)では、働く意味を理解し意欲を向上させる指針として、職員の総意を反映した「クレド」を策定し、組織の成長につなげていければと考えました。当院が策定した「クレド」の具体的な取り組みや成果、今後の方針について紹介します。
【開院40周年を機に病院改革】
当院は1977年1月に開院し、2017年の40周年の節目に病院のロゴを一新しました(アイキャッチ画像)。このシンボルマークの意味するところは、「病院内のスタッフ同士をはじめ、人と人との心の通い合いを大切にする姿勢」を表現しています。「その人の心の通い合い
から生まれる形はハート(真の優しさ)であり、成尾の頭文字“N”のなかで育んでいくという決意」が込められています。このロゴで表した精神を言葉で表現するために、医局をはじめ各部署からの代表約20人で構成された「クレド委員会」を発足させ、月数回のペースで会議を重ね、クレドづくりに取り組みました。
クレドは私が当院へ転職した2016年に発案しました。当時は管理職のほとんどが30歳代~40歳代前半で職人気質の職員が多く、個人や所属部署での仕事の完成度は高いレベルでした。その半面、他部署との連携や協力が少なく、まわりへは関心が薄く、組織としてはまだまだ未成熟ということを常に実感していました。
このような状況から、組織を成熟させていくにはまずは、職員同士が共感を呼ぶ関係性づくりが必要と考えました。この共感を呼ぶ関係性づくりとして、「こころ」に訴えかけるツールである「クレド」を活用しようと思いました。
翌年の2017年が開院40周年というタイミングを有効活用して、組織を成熟させていくよい機会、スタートになればと考えクレド委員会を立ち上げました。
「クレド」とはラテン語で「誓い」、「約束」、「信念」、「信条」を表します。
「クレドは働く意味を理解し意欲を向上させる指針」として、現場職員のボトムアップの考え方と経営トップの意向が融合したものでなければならないという認識のもと、「クレドは誓いと行動指針を示すもの」として、象徴ではなく実効性があるものにしたいと考えました。
また、自ら考え「こころ」で納得し、具体的に行動できるよう明文化したものが「クレド」であり、そのためには職員の考えをより多く反映させることが必要と考え、職員全員から具体案や意見を集め、1年以上何度も議論を重ねました。集まった具体案等は全部で150項目以上に及んでいました。中には「誓い」、「行動指針」、「病院の方向性」とは趣旨が異なる項目も含まれていましたが、幅広い意見を尊重し取り入れるために、あえて職員の選択に委ねることにしました。
実際に集まったクレド(案)では、患者さまに対しては「安心、安全、快適な入院生活が送れるよう、誠意、親切、公平を持って医療や看護を提供します」、「患者さまが安心して治療を受けられる環境を提供します」など、院内の仲間に対しては「ありがとうと感謝の気持ちを言葉で表す」、「積極的にコミュニケーションを図りチームワーク、チーム医療に役立てます」など、さまざまな意見が寄せられました。
職員の具体案等に基づき議論した結果、「共に働く院内の仲間」、「当院をご利用いただいている患者さま」、「日頃から支えていただいている地域社会」、「病院のパートナーである取引業者」の方々に対して「クレド」を掲げようと決めました。
そして、この方々にどのような誓い(約束)を掲げ、また、どうすればこの方々に責任を果たし満足を与えられるか(行動指針)を具体的に議論していきました。
こうして集まった膨大な量の職員の「声」をクレド委員会で整理し、当院の「クレド」は2018年1月に完成、明文化することができました。今回気づいたことは、クレドを作成すること自体が目的ではなく、それに至るプロセスも非常に大切なものになったことです。
完成した「クレド」を共有し、「共に働く仲間」、「患者さま」、「地域の皆さま」、「業者の皆さま」と信頼し合い、感謝の「こころ」を忘れず、互いに切磋琢磨して生まれる団結力は、最高の医療提供につながると考えます。
全職員が「こころ」を一つに同じ方向へ病院を推し進め、患者さまに安心して納得のいく質の高い医療を継続して提供できること、そして職員が働きやすくやりがいを持ち、地域に信頼される病院を目指していきたいと思います。
「クレド」は毎週行う全体朝礼で唱和し、入職時にも新人職員に説明、職員ハンドブックやホームページ、広報誌、SNS 等でも発信し、多方面に浸透させています。
「クレド」により当院の組織が「集団」から「チーム」に進化していきました。多くの職員がそう感じたと思います。それまでは他部署には無関心で、そこに集まって仕事をしている「集団」だったわれわれが、他部署や他の方々にも目を向け関心を持ち、互いに助け合い、一人ひとりが役割を認識しながら自ら考え行動できる「チーム」に成長できたことが最も大きな成果だと思っています。
職員がつくった当院のクレドは以下の通りです。
〈成尾整形外科病院クレド(CREDO)〉
患者様に寄り添い、安全・安心の環境と最高の医療を提供することが使命です。あらゆる人に対して信頼・誠実・尊敬の念を持って接し、ありがとうと心から言える文化を育み、職場環境を創ってまいります。
CREDO 1 (共に働く院内の仲間)
「ありがとうの心を力にします」
○「ありがとう」と心から言える文化を育みます
○お互いが助け合える職場環境を創っていきます
○感謝の気持ちと気づきを大切にします
CREDO 2 (当院をご利用いただいている患者様)
「お一人お一人に寄り添った、安心できる医療を提供します」
○誠意をもって接します
○常に患者さんの立場に立った行動をします
CREDO 3 (日頃から支えていただいている地域社会)
「地域の皆様に愛される病院をつくります」
○顔の見えるつながりを築きます
○誰にでも気持ち良い挨拶をします
○積極的に地域活動に参加します
CREDO 4 (当院のパートナーである取引業者)
「信頼関係を築き、感謝の気持ちを伝えます」
○挨拶や丁寧な対応を行います
○コミュニケーションをとり信頼関係を築きます
○連携してより良い医療を提供します
【クレドから生まれた「ありがとうの木」
~感謝の気持ちを葉っぱに乗せて~】
皆さんは普段、感謝の気持ちを伝えられていますか?
2017年7月より開始した「ありがとうの木」(写真)。この木は「共に働く院内の仲間」に対して感謝の気持ちを表し、「ありがとう文化」、「ありがとう経営」を組織に根づかせ育んでいこうとの趣旨からクレド委員会を進めていくなかで、臨床検査科職員のアイデアから生まれました。
「思っていても伝えられない」、「当たり前になっていて気づけない」、そんな小さな「ありがとう」を言葉にすることで、「みんながハッピーになれたらいいな」、という想いから発案されました。あまり伝える機会のない他部署の方へのメッセージなど、私たちが何気なく過ごしている日常にも「ありがとう」は溢れていることを実感させられます。
「職員」から「職員」に向けて感謝の言葉を伝えようということで発案された「ありがとうの木」が、最近では「患者さま」や「ご家族」等からもたくさんの「ありがとう」をいただけるようになりました。
こうして皆さんから寄せられた感謝のメッセージは葉っぱとなり、「ありがとうの木」を少しずつ成長させています。みんなで「ありがとうの木」を育て、ハッピーが溢れる病院にしていきたいと思います。
寄せられたメッセージは職員のモチベーションや活力になるよう、毎月集計して全職員へ配信しています。
また、日々の小さな感謝の気持ちを伝え合い、職員がより一層励む力となることで患者さま等へ「優しさ」、「思いやり」などとして還元できればと思います。
「クレド」からは、「ありがとうの木」以外にも、1年間で最も病院に貢献のあった職員を推薦、投票する「職員MVP」表彰制度も生まれました。表彰される職員はもちろんのこと、推薦者に対しても「職員の頑張りをよくぞ見つけてくれた!」という感謝を込め、全員に記念品を進呈しています。毎年4月の「職員総会」で表彰、公表し、年度初めを気持ちよくスタートしています。
【終わりに】
マニュアルが「頭」で理解させて守らせるルールであるのに対し、クレドは「こころ」で納得して自ら実践するものです。「クレド」の浸透、定着を図る活動をしていき、患者さま・職員満足度向上、組織力強化につなげていくのが「クレド」の役割です。
全職員が、自分ができるベストの顧客満足を提供し、職員の意識・意欲(モチベーション)を高めるとともに多くの患者さまへ感動と共感を与えられるよう、これから当院が目指す方向、あるべき姿を「クレド」を活用しながら実現していきたいと思います。
「クレド」は、その時々の状況に応じて見直しを図り、常により良いものへ発展するよう改善を続けていきます。
また、職員それぞれが持つ志を共有化することで役割をより強く自覚し、結束して豊かな当院の未来に向けて、質の高い活動を行っていくことを期待しています。
産労総合研究所発行 病院羅針盤 2021年5月1日号掲載分一部改編