病医院経営の今をお伝えするコラム
コンサルタントの視点から:「インプラント市場の変化と対応方向を考える」
1.はじめに
インプラントが普及し、厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査では、70 歳~74歳で5.9%という実施率であった。以前は高度先進治療といわれていたが、いまでは普通の補綴治療のひとつとなってきたとみられる。
2.インプラント手術を実施する歯科医院が増えている
図表のように、平成29年時点で歯科診療所の35%がインプラントを実施していた。いまでは歯科診療所の40%程度がインプラント治療を行っていると推察される。また、日本口腔インプラント学会の会員数は16,603人を数え、令和2年12月現在の届出歯科医師数107,443人の15.5%である。このすべての歯科医師がインプラント手術を行っていると考えられ、現在も増え続けているとみられる。
この結果、地域のかかりつけの歯科医院で、インプラント手術をうけられる患者が増え、インプラント専業の「インプラントセンター」の市場が大きく縮小しているとみられる。
3.広告宣伝費が命取りになりかねない。
インプラントセンターはWEB広告と看板広告に力を入れる医院が多いようである。WEB広告は少なくとも年間2~3千万円程度をかけなければ効果が期待できない。看板は、医院の半径10キロメートル以上の幹線道路沿いに大型の夜間照明付きの野立て看板を設置すると、一か所について月額10万円程度の維持費がかかり、30か所に設置するとすれば、製作費を除いても月に300万円、年間では3600万円になる。例えば、年間3千万円程度のWEB広告費をかけて年間300人の初診患者が来院しているとすれば、広告費は患者1人あたり10万円になる。その患者にインプラントを1本30万円で埋入するとすれば、広告費を除いた治療費は20万円である。ここから材料代と人件費を差し引くと、決して採算性が高いとはいえない。
4.まとめ
かかりつけ歯科医院でインプラント治療が受けられる時代に、インプラントセンターでの治療を選ぶのは、
①インプラントを行っていない歯科医院からの紹介患者
②かかりつけ医院の値段が高いと感じた患者
③かかりつけ医院よりインプラント専業のほうが安心できると考えた患者
などだろう。
さらに、予防歯科が普及してきた結果、高齢者に歯牙が多く残る時代となっており、近くのかかりつけの歯科医院でインプラントを受ける患者が増えるだろう。その結果、インプラント専業のインプラントセンターの市場は縮小に向かい、今後はいくら広告費を増やしても患者の減少に歯止めがかからなくなる可能性がある。
大型インプラントセンターが取りうる対策は、
①インプラントを行わない医院との患者紹介の連携を広めること
②ザイゴマや難症例への対応など高い技術で一般の歯科医院から患者紹介を受けられるようにすること
③治療の価格帯の選択肢を整えて価格競争を避けること
などだろう。
逆に、一般の歯科院では未熟な歯科医師による医療過誤も起きている。
高度な補助手術が必要な症例や大型の症例はインプラントセンターに紹介するなど、連携してリスクを下げることを考える必要があるだろう。
以上