病医院経営の今をお伝えするコラム
病医院における就業規則の重要性について

医療業界は慢性的な人手不足です。医業経営において、以前は増収・増患やコストカット等に重きを置かれていましたが、昨今ではヒトの問題がクローズアップされる様になりました。
特に働き方改革関連法が毎年次々に施行され、都度対応を迫られる様になっています。
職員の権利意識も高まり、労働の対価としての給与や休暇等を「医療は社会奉仕である」という理由から曖昧にせずにハッキリさせるという風潮になってきています。
その様な経営環境の中で、まだまだ整備が行き届いていないのが、就業規則です。
開業当初の古いままの就業規則を用いていたり、就業規則を作成していない、作成していても全く職員に見せていない等です。
もっとも常時10人未満の職員を雇用していなければ就業規則の作成、届出義務はないわけですが、就業規則がなければ懲戒処分は無効(最高裁平成15年10月10日判決)となります。
我が国では罪刑法定主義といって、何が犯罪で、それに対してどの様な刑罰が科せられるかについては法律に規定されていなければならないという原則がありますが、これは企業内のルールでも同じで、「何をしてはいけないか、してしまったらどの様なペナルティがあるか」というのはあらかじめ規定がされていなければならないのです。
確かに、よくわからないルールによって、いきなり給料を半分にされたりクビになったりしてはたまりません。実際はそんなに極端な事はないと思いますが、この様な事が起きない様な判断を裁判所もしているのです。
特に、今年の4月からはハラスメント防止措置が全面的に義務化され、行為者に対して処分を科すような仕組みも整備する必要があり、どの様な規模においても就業規則はなくてはならないものとなります。
また、古いままの就業規則では、様々な法改正に後れを取ってしまい、就業規則があっても意味のないものになりかねないものとなります。食べ物でいえば賞味期限が切れて腐ったままになっている様なものです。
それに、規定の不備があれば、昨今医療業界でも労働時間対策に多く利用されている「変形労働時間制」なども無効(令和2年6月東京地裁判決など)になってしまうのです。この様な事があれば、現在でも未払賃金の時効は3年に(今後5年になる)延びた事もあり、多額の賃金支払いをする事となってしまうのです。
そして、一番問題なのが就業規則を作成しても見せていない事。就業規則は周知しなければ、無効です。よくわからないルールで処罰されてはたまらないと申しましたが、見た事もないものをルールだと言われてもないものと同じなのです。
それから、ひな型をそのまま流用するのも危険です。過度に自院にとって不利益なルールを規定したままになってしまう事があります。
労務トラブルは大病院だけで起きているわけではありません。実際に数名のクリニックでも起きています。また、最近はインターネットの様々な情報により、最初に労働基準監督署へ駆け込む方よりも、いきなりユニオンや弁護士のところに駆け込む方も増えてきています。
労働基準監督署は労働基準法違反や労働安全衛生法違反などの刑罰規定のある労働法違反しか扱いませんが、ユニオンや弁護士はいきなり民事紛争に発展し、多額の損害賠償請求にも発展しかねず、長く、精神的に負荷のかかる交渉や裁判を強いられ、診療にも支障をきたす様になります。
ウチは弁護士がいるから大丈夫というのは楽観的過ぎます。弁護士も医師と同じく様々な専門分野があるからです。普段から就業規則の整備により予防をし、トラブルが発生したらいつでも「使用者側の労働問題に詳しい」弁護士(顧問の社労士やコンサルタントから紹介して頂ける様にしておく)と連携できる様にしておきましょう。