病医院経営の今をお伝えするコラム
【6月改定の現実を直視し、「茹でガエル医院」を回避する 新・医療経営戦略】
はじめに…
クリニックや診療所の状況も深刻だ。
日本医師会は9月17日の定例記者会見で、2025年の「診療所の緊急経営調査」の結果を公表した。
医療法人の2024年度の医業利益の赤字割合は45.2%、経常利益の赤字割合は39.2%だった。
同調査では経営課題についても尋ねており、「近い将来、廃業」との回答が診療所全体で13.8%に上ったことは特筆すべきだろう、(法人化していない)個人立の診療所でも、2024年度の経常利益が前年度から19.5%減少している。
そして、某メディカル・データ会社では2026年度診療報酬改定(+3.09%)を受けた病院経営の収入額を前年度実績を基にシミュレーションした結果、一施設当たり増収額が入院で年額9,400万円増(急性期一般入院料、前年比+2.02%)となる一方、外来が同6,800万円減(前年比-2.27%)になる見通しで、引き続き厳しい経営環境が続くことがわかった。
さらに、先日、某診療研究チームから講師のオファーをいただき、参加し。そこでも、「現場の生の声」は、どの診療所でも改定後の「6月~患者数が激減している」という話で持ちきりだった。
1.受診抑制の現実と歪んだ診療報酬の罠
この現象は一時的なものではありません。
度重なる負担金の増加や急速に進む人口減少、医療から介護保険への移行、高齢者の通院を阻む交通事情の悪化、さらには近年の物価高騰などが重なり、患者側の「受診抑制」が完全に働いている証拠です。
さらにこれから迎える猛暑の時期は、高齢者の外出控えに拍車をかけ、この傾向を一段と助長していくことは火を見るより明らかです。
これだけに留まらず、現在の診療報酬制度は医療機関の首をさらに絞めています。
象徴的なのが「ベースアップ評価料」です。
診療報酬の引き上げが大義名分として掲げられたものの、それは見せかけの増収に過ぎません。
ご存じの通り、その原資はすべてスタッフの賃上げに消え、医療機関の純粋な「増収」には一円も繋がらないのが実態です。
さらに物価高騰が追い打ちをかけ、医療材料は償還価格(国が定める公定価格)でさえも仕入れ値が上回る「逆ザヤ状態」に陥っています。
つまり、診察すればするほど経営が圧迫されるという、極めて歪んだ構造が現場を直撃しているのです。
これらに追い打ちをかけるように「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)では、社会保障改革として、物価・賃金動向の公定価格への反映を進める一方、現役世代の保険料負担抑制や給付・負担の効率化・適正化を並行して追求として、高齢者の原則3割負担や高額療養費の引き上げ。高齢者の3割負担については一時的に延期されましたが、8月から高額療養費の引き上げが予定、OTC類似薬の選定療養費の徴収、またまたさらにその先には、かかりつけ医以外を受診した際にワンコイン(500円)の選定療養費を徴収するなどという制度の導入も現実味を帯びて考えられます。
まるで、国や行政が社会保障費を国民の財布からいつでも引き出せる口座のように扱っている状態、言葉で例えれば『見えないATM』
これらの一連の改革には、国民が「医療資源の適正配置のためなら仕方がない」と納得せざるを得ない巧妙な仕掛けが施されているのです。
2. 迫り来る「4月の衝撃」と執行猶予の終わり
さらに、今後のカレンダーや制度改革のタイムラインを読めば、より凄惨な未来が見えてきます。
シルバーウイーク、年末年始などの長期の大型連休による診療日数の減少に加え、来年4月のOTC類似薬の選定療養費導入を前に、2月頃からは負担増を嫌う患者による「駆け込み需要」が発生するでしょう。
しかし、その反動は恐ろしいものです、4月を迎えた瞬間、一気に医療機関は閑散期へと突入することになります。
以前のバックナンバー『外来診療所の選別と淘汰における執行猶予の構造分析』でも述べた通り、我々に残された時間は、国が与えてくれたほんのわずかな「執行猶予期間」に過ぎません。
そして、生き残る医院と淘汰される医院の「二極分化」は、すでに水面下で猛烈に加速化し始めています。
国に「はしご」を外されたら、私たちは「屋根の上に家を建てたら良い」、それくらいの気概を持つべきではないでしょうか。
今まさにマストなのは、いち早く時代を読み、先手を打って対応することです。
人より汗をかくこと、常に2手3手先を読み行動することなど、私たちにやれる事は山ほどあります。
それにもかかわらず、変化を恐れて何もやらないのは本当に残念でなりません。
この「執行猶予」のカウントダウンが止まらない今、一体いつ対策を打つべきなのか。
答えは一つ、「今でしょ!」の精神で即座に動くしかありません。
3.診療所が「今すぐ」取り組むべきお勧め3つの生存戦略(例)
この危機的状況を乗り越え、診療所が「屋根の上に家を建てる」ために、今すぐ実践すべき3つの柱です。
① 通院困難な患者を孤立させない「攻めのアクセス戦略」
• オンライン診療の体制構築: 猛暑や交通事情で受診できない高齢者を救う仕組みの早期確立。
• 在宅・訪問へのシフト: 外来依存の経営から脱却し、地域の受け皿としての機能を強化。
② 制度改革や逆ザヤを跳ね返す「付加価値(保険外)戦略」
• OTC類似薬対策のブランディング: 診療所独自の予防医療、生活習慣病の自費指導、サプリメント外来などをパッケージ化。
• ハイブリッドな収益モデル: 「ベースアップ評価料」の見せかけの増収や材料逆ザヤ、4月以降の患者減に振り回されないため、コスト管理の徹底と自費・物販の組み合わせによる収益構造の転換。
③ 将来を見据えたかかりつけ医機能・増収の特効薬として新たな施設基準の取得
• ワンコイン制度への先手: 地域包括診療料や機能強化加算の算定要件を確実にクリア。
• 施設基準の獲得: 新たな施設基準の獲得は、増収の特効薬、職員や患者の満足度もアップし、しかも地域医療にも貢献など多数のインセンティブが可能
【まとめ】
やれる事があるのにやらないクリニックは、二極分化の「敗者」として制度改革の大波に呑まれるのを待つだけになってしまいます。
私自身も一馬力の限界に挑みつつ、クライアントである診療所が「茹でガエル」にならぬよう、誰よりも早く時代を先読みし、熱い情熱を持って行動できる唯一無二の灯台として、引き続き汗をかいて伴走していく所存で御座います。

