病医院経営の今をお伝えするコラム
2026年、診療報酬改定 医療の生存戦略
はじめに…
2026年度(令和8年度)診療報酬改定。それは、加速する「超少子高齢化」という静かなる有事に対し、日本医療が放つ最後にして最大のグランドデザインである。
我々は今、システムを維持する守りのフェーズを終え、制度の根幹を揺るがす「再定義」の荒波へと踏み出した。
1.診療報酬改定の要点と現場の実態
①「本体+3.09%」の正体
2026年度改定では、医療従事者の賃上げに向けた「+1.07%」に加え、閣議決定等による特例的な対応を含め、実質的に過去最高水準のプラス改定「+3.09%」となった。
これは他産業の賃上げ機運(春闘など)に取り残されないための、国家による強力なメッセージです。
②ベースアップ評価料の光と影
・40歳未満の勤務医や事務職員、コメディカルを対象とした「ベースアップ評価料」は、確かに賃上げの原資となります。
しかし、これは「賃上げに充てること」が厳格に求められる紐付きの財源であり、医療機関が自由に使える経営資金(内部留保)にはなりません。
・「通過型の上乗せ」による経営圧迫
収益が増えても、それがそのまま人件費として支出されるため、医療機関の収支差(利益)は改善しません。
むしろ、社会保険料の事業主負担増などを考慮すると、実質的な経営体力は削られる「残酷な効率化」の側面を持っています。
今回の改定は、医療従事者の「所得」は守るが、医療機関の「経営」は守りきらないという、非常に厳しい選別を含んでいます。
ベースアップ評価料の拡充は歓迎すべき「敬意」の表れですが、現場には、賃上げを達成しつつ、同時に経営のスリム化を完遂するという、極めて難易度の高い舵取りが求められています。
2. 医療DXの覚醒:分断された「点」を、最強の「線」へ
「医療DX推進体制整備加算」等は、DXを導入から「臨床で使い倒す」フェーズへ押し上げた。マイナ保険証と電子処方箋による情報の民主化は、物理的距離をゼロにします。
さらに、「オンライン診療」は、「薬の宅配」までをシームレスにつなぐ事により物流網の統合し、通院という障壁を消滅させ、アクセスを極限まで高めます。
「データ提出加算」による経営の可視化とサイバーセキュリティの義務化を含め、情報の分断を突破するテクノロジーが、医療の新たなインフラとなります。
3. 地域完結型プラットフォーム:病院という「箱」からの解放
「病院で治す」時代は終わり、「地域というワンチームで支える」新時代が幕を開ける。
また、「かかりつけ医機能」の再評価に伴い、専門病院との医療連携は、紹介・逆紹介の推進による加算・減算の両面で厳格化され、機能分和が加速する。
この選別において、紹介先に「選ばれる」条件は、もはや医療技術の研鑽だけではない。
自らの機能を可視化し、地域へと知らしめる「営業(プロモーション)」という新領域の戦略的実行が、組織の命運を分ける。
多職種が奏でる「オーケストラ」への評価は、単なる報酬を超え、プロフェッショナルが結集した「連帯の証」へと昇華された。
4. 結び:選別の時代の幕開けと「負担の再編」という痛み
今回の改定が示すのは、リスペクトの皮を被った「選別」の始まりである。
超少子高齢化により、人口減少や高齢主比率の増加(介護保険への移行)なども鑑みて、持続可能性という美名の裏で、患者には直接的な「痛み」が迫る。
それは、近い将来に高額療養費の上限引き上げや、OTC類似薬の選定療養化、今回のプラス改定による患者負担金の増加など、これらは、限られた公的資源を高度医療へ集中させるための、なりふり構わぬ資源配分だ。「何でも保険で」という時代は終焉を迎え、自助と公助の境界線は、かつてないほど厳格に引き直された。
「賃上げ」という社会的責任を果たし、患者への「負担の納得感」を自ら醸成しながら、DXと戦略的連携によって「経営の余白」を自力で生み出せる組織、その「血の滲むような自助努力」だけが、生き残りを許される。この改定を「淘汰の荒波」と恐れて立ち尽くすか、未来を創る「最強の武器」へと変えて突き進むか。
その答えは、制度の中にはない。我々現場の「選択」の中にしかない。
【次回予告】
「戦略」を「実行」へ。2026年改定、増収・減収の分岐点を突破し、クリニックを中心(下図参照)に「増減収シミュレーションと具体策」を提示し、生き残るための「次の一手」を、徹底解説を致します。

