病医院経営の今をお伝えするコラム
【開業医の先生からの質問 医療法人化編】第1回 医療法人をやめることはできますか?
開業医の先生から「医療法人のことを詳しく教えてほしい」というお話をよくいただきます。 先生方が医療法人化をご検討されるにあたり、ご不明な点を明確にしていただければと思います。
第1回の今回は「開業医の先生から多くある質問 医療法人化編」として『医療法人化した後に、医療法人をやめること(医療法人を解散すること)はできますか?』についてご案内したいと思います。
このご質問をされる多くの開業医の先生に「なぜこの質問をされるのですか?」と伺うと「自分は医療法人のことを詳しく理解していないので、思っている医療法人と実際の運営が違っていたら元に戻りたいから」と仰います。
先に結論を申し上げますと、一定の条件を満たせば医療法人化した後に医療法人をやめること(解散すること)はできます。
ただし、医療法人の種類や状況によっては解散することに時間を長く要するものや、解散のために多額の費用を要するもの、多くの財産を失うことになる場合等、知っておかないと後悔するケースがありますのでご注意ください。
【開業医の先生からの質問 医療法人化編】第1回 医療法人をやめることはできますか?
■ 医療法人とは
まず、医療法人についてご理解いただきたいと思います。
日本における法人には、営利活動を目的とし会社法により設立される「株式会社」、「合同会社」等と、非営利活動を目的とし各種法律によって設立される「公益法人」とがあります。
例えば、私立学校法によって設立される「学校法人」、社会福祉事業法によって設立される「社会福祉法人」、医療法によって設立される「医療法人」等が存在します。
つまり、医療法人は医療法によって設立されるため、通常の株式会社とはその設立、業務運営、税務など異なる点が多くあります。
例えば、医療法人の定款は通常の営利法人とは異なり、決められた箇所以外自由に書き換えることはできません。
■ 医療法人の種類
次に医療法人には、大きく分けて財産の集合体の『財団』と人の集合体の『社団』の医療法人に分かれています。
『財団』の主な医療法人には、『医療法人財団』の他、医療法を根拠とする「社会医療法人」、租税特別措置法を根拠とする「特定医療法人」があります。
『社団』の医療法人には、平成19年4月以降に設立された『出資持分なしの基金拠出型医療法人』と、平成19年3月31日以前に設立された『出資持分ありの経過措置型医療法人』とがあります。
詳しくは、厚生労働省 「医療法人の基礎知識」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_shusshi_09.pdf
をご参照ください。
厚生労働省調べによると令和5年の医療法人総数は約58,005件。 そのうち、財団の医療法人は362件、社団の医療法人は57,643件です。 開業医の先生が設立されている『いわゆる一人医師医療法人』の多くは、社団の医療法人です。
現在新規の設立は『出資持分なしの基金拠出型医療法人』しか認められません。 余談ですが、医療法人の設立をお考えの際に「出資持分ありの経過措置型医療法人を買い取りませんか?」という話が出てくる場合があります。
経過措置型医療法人に限らず医療法人を買い取ることを検討される場合には、隠れ債務、隠れ訴訟、隠れ理事、隠れ社員など注意しなければならないことが多いので、十分な調査・検討が必要です。
■ 医療法人制度
そして、繰り返しになりますが、医療法人は医療法によって設立されるため、その性格上医療法人の設立には都道府県知事の認可が必要です。(医療法第44条)
医療法人をやめる(医療法人を解散する)場合も基本的には、医療法による都道府県知事の認可が必要です。
■ 医療法 第六章 医療法人 第五節 解散及び合併
医療法第五十五条では、医療法人の解散を次のように定めています。
社団たる医療法人は、次の事由によって解散する。
1. 定款をもつて定めた解散事由の発生
2. 目的たる業務の成功の不能
※社会通念上により決められています。 病院、診療所等が、焼失したからと言って必ずしもこの事由に該当するとは限りません。
3. 社員総会の決議
※定款に別段の定めのない限り、総社員の4分の3以上の承諾を要します(医療法55-2)。
4. 他の医療法人との合併 (合併により当該医療法人が消滅する場合に限る)
5. 社員の欠亡
※社員が一人もいなくなった場合です。 この場合は、都道府県知事の許可を受けることなく解散手続きが開始されることになります。
6. 破産手続き開始の決定
※破産の要件は、債務超過であり、医療法人がその債務を完済することができない状況になったときは、理事は破産手続き開始の申立ての義務を負うもので、これに違反すれば20万円以下の過料に処されます(医療法55-5、76七)。
7. 設立認可の取消し
■ まとめ
このように医療法人化した後に、医療法人をやめること(医療法人を解散すること)はできますが、実際には医療法の条件を満たさなければならず、その申請手続きに費用も時間もかかります。
そして、実際の解散時に注意しなければならないことに、残余財産の問題があります。
開業医の先生が多く設立される社団の『出資持分なしの基金拠出型医療法人』に残された財産の処分方法は、次の様に定められています。
本社団が解散した場合の残余財産は、合併及び破産手続き開始の決定による解散の場合を除き、次の者から選定して帰属させるものとする。
1. 国
2. 地方公共団体
3. 医療法第31条に定める公的医療機関の開設者
4. 都道府県医師会又は郡市区医師会(一般社団法人又は一般財団法人に限る。)
5. 財団たる医療法人又は社団たる医療法人であって持分の定めのないもの
つまり、安易に解散すると先生が頑張って作られた医療法人の残余財産を開業医の先生ご自身のものにできない場合があります。 もちろん、開業医の先生ご自身のものにできる方法もあります。
そもそも医療法人の制度の目的は、地域の医療経営を容易にし、永続性を持たせることですので、短期的な医療法人経営は望まれていません。
残念ながら多くの開業医の先生が、少数のお知り合いからの情報で医療法人の誤った情報をお持ちの場合がとても多いのが実態です。
医療法人制度は、正しい情報、正しい経営、正しい判断の下に設立すれば、積極的なクリニック経営を望まれている開業医の先生にとっては、とても有効な制度と考えます。